これで見納め。(ギエム「最後のボレロ」大阪公演 その2)

NHK杯の感想は、今日の分をまだ見ていないのでまたのちほど。
記憶の劣化しないうちに、「最後のボレロ」2日目の感想を。
プログラム・キャストは以下の通りです。
○スプリング・アンド・フォール(振付:J・ノイマイヤー/音楽:A・ドヴォルザーク
 ソロ…長谷川智佳子・木村和夫 群舞…東バのみなさん(名前省略)
○小さな死(振付:I・キリアン/音楽:W・A・モーツァルト
 シルヴィ・ギエム、マッシモ・ムッル
○シンフォニー・イン・D(振付:I・キリアン/音楽:J・ハイドン
 東バのみなさん(名前省略)
ボレロ(振付:M・ベジャール/音楽:M・ラヴェル
…なのですが、本来のキャストからの変更として、
「シンフォニー・イン・D」・「ボレロ」で大嶋正樹→後藤晴雄、
「シンフォニー・イン・D」で高村順子→門西雅実となっていました。
いや、ひょっとすると気付かなかっただけで、1日目も変更だったのかもしれませんが。
まあ、今回の全国公演は長丁場ですからねー。
日程はまだ2週間ありますが、出演者のみなさまはお体に気をつけて頑張って下さい。

で、感想。
とりあえず、「ボレロ」以外は全て初めて見ました。
「スプリング・アンド・フォール」は、なんだかフランスの実験的な映画のような印象。
無機的な舞台の上で、多数の人物が絶えず動き回っているのだけれど、
(あれは若いカップルたちの青春群像…のようなものだったのだろうか。いまいち自信なし。)
その一つ一つの動きが連関していて、ひとつの筋を作り出している。
あっちであんなことしているなーと見ている視線の隅では、別の人物が別のことをしているのが見える。
こういう「油断してると見逃しちゃう」感じの演目は好きですね。
ただ、風邪気味でどえらく体調が悪かったので、存分に味わえたとは言い難く…
ところどころ、意識が飛びかけてました。
やっぱ良いものを鑑賞するためには、体調は大事ですねえ。

休憩時間にちょっとお腹に物を入れたこともあって、いささか持ち直す。
気を取り直して次の演目へ。

「小さな死」は個人的にすごく気に入りましたね。
大技小技を取り交えて、さまざまなモーションが果てしなく連続していくのですが…
ものすごい運動量が要求されますね、この演目。息をつけるところが全くない。
「どこまでいっちゃうんだろー」と、ぐいぐい引き込まれていきました。
んでもって、ギエムはその動きの一つ一つがきれいな上に、
ものすごく滑らかに動きをつないでいってしまうものだから。
終わった瞬間、ほーっとため息。ものすごく集中して見入ってたんですね。
こういう緊張感は大好きです。

ボレロ」の出だしでもそうですが、大勢の観客の目がただ一人の動作に集中している、
そういう空間そのものの緊張感も好きですね。
多分それは、私が舞台芸術などを見に行くのが好きな理由のひとつなのだと思います。
オケの指揮者の「最初の一振り」もしかり。演奏会であの雰囲気が作れない指揮者はプロ失格。
(学会報告における研究者の第一声だってそうなのかもしれませんが…)

でもって、この演目はエロい(笑)。ただし、生々しさは感じられませんが。
そして、それはギエムらしさなのかもしれない。
なんて言うんでしょう、性というのはある意味生命そのものの営みな訳ですが、
(「小さな死」”petit mort”はオルガスムスの意)
ギエムが演じると、生々しい性そのものではなくて、どことなく無機的な印象。
もっとも、他の人がこの演目を演じたらどうなるのか、とか、
ギエムが他の演目を演じたらどうなるのか、とかを、知識として持っていないという前提での意見ですが。

あと、「スプリング・アンド・フォール」・「小さな死」と見ていて、あらためて考えたのは、
自分の生き方にとっての、恋愛とか性といったものの意味でしょうか…。

一転して「シンフォニー・イン・D」はコミカルでとっても楽しい作品。
以前友人が、「キリアンがバレエ学校の生徒にふりつけた作品で、おもしろい小品です。
バレエ学校の生徒の風刺だと思ってみると、笑いのツボがよくわかるはず。」と教えてくれたのですが、
確かに面白かったです。もっとも、日本のバレエ学校だとこんなに男の子はいないでしょうが(笑)。
なんか、大笑いする感じではないんですよね。
会場のそこここから、「フフフフフ…」と含み笑いが聞こえてくる感じ。
それと、割と三人一組でぐるぐると立ち位置を変えながら舞台を斜めに突っ切る動作が出てくるんですが、
あれは見ててコミカルですっごい面白いんですけど、やってる側は難しそうでした。

で、最後は「ボレロ」。
今回だけでも3度目なので、改めての感想という感じではないですが、
「これで見納めなんか~」という感慨が。
曲が進むにつれて、クレッシェンドがかかってどんどん盛り上がっていくわけですが、
一方で「このまま終わらなければいいのに」と正直思いました。
でもまあ、これからは別の演目を踊ってくれるのを見る楽しみがあるわけで。

基本的に関西のファンのみなさまは、これで見るのは最後なので、
いつもに増して長く熱狂的なカーテンコールでした。
となりの席で見ていたのは母娘と思しき二人連れだったのですが、
お母様の方は「ずっとすごい見たかってん。最後に見れて良かった~。」と涙しておられました。
良かったですね。

えーっと、千秋楽は20日(火)の松江での公演です。
正直なところ、見に行きたくって仕方ありません(笑)。
高速バス(夜行じゃないのもある)で往復10800円、チケットもまだ残ってる。
19日・21日が研究会で、21日は発表が当ってるんですが、
このスケジュールを見て「なーんだ、うまい具合に空いてるじゃん」と思ってしまう自分がイヤ(笑)。