締め切りの話。

今月末締め切りの原稿は、昨日の夕方に無事速達で郵送。やれやれ。
まあもっともこの業界、締め切りを守るのは、
奇特とされることはあっても、必ずしも美徳とはされないところがありますが。
なので、「できる限り締め切り破りはするまい」というのは、
どちらかというと個人的信条の部類に入ります。
確かに、「締め切り破ってても内容がいい論文」>「締め切り守った並の論文」だろうとも思いますし。
もちろん、締め切りどうこうは抜きにして、自分の原稿を出す時には、
その時点の自分にとって最善の内容だ、と言い切れるだけのものを出しているつもりですけれど。

とはいえ、何やかやでみなさん他人の締め切り破りの被害をこうむっていらっしゃるのも事実なので、
(もちろん締め切り破りの迷惑をお互いにかけ合ってるわけですが…)
もう少し締め切りというものに学会全体で思いをいたす方がいいんじゃないかなーとは思います(苦笑)。
てゆーかねー、出版社はもうちょっと大事にしてあげないと、
あとで絶対自分達に跳ね返ってくると思うんですが。
ただでさえこの活字離れのご時勢、出版社の経営大変なんだから…。
大学の出版局ならともかく、一般の出版社はやっぱり営利でやってるわけだし。
出版業界が「草木も生えない」状況になってからでは遅いですよ。

現代説話の一つとして、とある先輩からうかがった、締め切りにまつわる逸話を一つ。
あくまで伝聞の話なので、固有名詞は伏せておきます。信用度に自信はありますけど。

その先輩はとある自治体史の編集の仕事をされていたのですが、
古代の執筆担当だった、数年前に亡くなられた歴史地理学の大家の先生が
(この時点で誰のことかわかる人にはわかりますが…まあ説話ってそういうもんですよね)
非常にお忙しい方なので、原稿が締め切りまでに上がってこなかったそうです。
それで、さてどうしたもんかな…と思っていると、先生曰く、
「締め切りには間に合わないけど、その代わり完璧な原稿を出すから、校正は一回だけでいいです」と。
で、先輩は大丈夫かなあと思いつつも、その言葉に従って編集作業を進めました。
そうして、遅れて届けられた原稿を見てみると…
 確かに完璧で、ほとんど校正で直すところがない、しかも、論旨は斬新で説得力がある。
という原稿だったそうです。

すごいですよね~。有言実行、研究者の鑑。
その先生を知る方なら、「さもありなん」という感嘆を共有していただけると思います。
僕は学部2年生の時に(つまりまだ専門に進んでない段階)、先生の講義を聴く機会がありましたが、
毎回本当に面白くて、「スゲー、スゲー」と思って聞いてましたから。
いったい他に誰が、「左京と右京が分離した都」なんてことを考え付くでしょう?
もうお亡くなりになって何年経つのかな…。
まだ大学に在職中になくなられたので、あの時は本当にショックでした。
いつか先生のように、斬新で刺激的な論文を書くのがひそかな目標です。
(なぜ「ひそか」かというと、まったく自分のキャラじゃないからですが。)