「チャレンジ」という制度。

ここのところ、深夜にテレビをつけるとテニスのウィンブルドンが放送されていて、
ついつい見てしまったのですが、
去年からウィンブルドンに「チャレンジ」の制度が導入されたのを知って、びっくりしました。
ウィンブルドンでの「チャレンジ」は、ライン際の球のIN/OUTの判定に不服があった場合、
コンピューターでの計測データによる再判定を要求できる制度です。

実はこの「チャレンジ」、もともとはアメフトのNFLで行われていた制度。
NFLになじみのない方にはどんなものかわからないと思うので、ちょっと簡単に説明すると、
①審判の判定に不服な場合、ヘッドコーチはチャレンジすることができる。
②チャレンジが行われると、審判は録画映像によるプレーの再確認を行う。
③判定を覆すに足る明確な証拠が得られた場合、チャレンジ成功
→判定が覆り、プレー続行
④判定を覆すに足る明確な証拠が得られなかった場合、チャレンジ失敗
→判定は覆らず、チャレンジを要求したチームのタイムアウトの権利が1つ減り、プレー続行
という制度です(細かいことは端折ってますが)。
で、「チャレンジ」の権利は1試合につき2回認められていて、
2回連続で成功した場合に限り、3回目の「チャレンジ」の権利が与えられます。
ただし、チャレンジ失敗の場合はタイムアウトの権利が一つ減ることになるので、
タイムアウトの権利が残っていない場合は、チャレンジはできません。
また、前後半の終了2分前からは「チャレンジ」ができなくなる代わりに、
微妙なプレーの判定については、審判が自らの判断で映像による再確認を適宜行います。

NFLの「チャレンジ」について考える場合に欠かせないポイントは、
アメリカンフットボールというスポーツにおいては「時計の管理」が重要な要素である、ということです。

世の中のすべてのゲームは、
終了条件が時間によるものか否か
で二分できると思います。
終了条件が時間でないゲームとは、たとえば
・試技の回数(野球・投擲競技・幅跳び・高跳び・ボウリング・飛び込みなど。)
・得点制(バレーボール・テニス・卓球など。)
・距離制(陸上競技・スピードスケート・競馬など。)
などなど。

逆に時間制のゲームは、アメフトをはじめ、ラグビー・バスケ・サッカー・柔道・ボクシングなどでしょう。
時間制のゲームの中で、アメフトが他の競技と比べて際立っている特徴は、
プレーのON/OFFがはっきりしていて、しばしば「時計が止まる」ことです。
どんな場面で時計が止まるかおおざっぱに言うと、
①攻撃権が移動したとき
②パスが失敗したとき
③ボールがOBになったとき
タイムアウトを取ったとき
⑤チャレンジを行ったとき
の5つの場合です。

で、アメフトの試合時間は15分×4クォーター=1時間なのですが、
終盤になると、勝っているチームは残り時間をどんどん消費しようとするし、
負けているチームは、②~⑤の手段を使って、なんとか時計を止めながら攻撃をしていこうとします。
たとえば、サイドライン際のパスを使って、キャッチしたらすぐOBに出るとか、
わざとパスを投げ捨てるとか。
その中でも、タイムアウトは、確実に時間を止めることができ、また作戦を練ることもできるので、
特に終盤に、タイムアウトの権利は、勝敗の行方を左右しかねない重要な要素となるのです。

NFLにおけるチャレンジがシステムとして実によくできているのは、
タイムアウトの権利を一つかけて行う」という点です。
ヘッドコーチは、前後半の序盤には、後の展開を考えて権利行使に慎重になるし、
逆に終盤には、時計を止めるためにダメもとでチャレンジしたり、
負けていてもまだあきらめていないことを示すためにチャレンジをして選手を鼓舞したりすることもあります。
そして観客も、試合の勝敗を左右する要素の一つとして、チャレンジに注目して見るわけです。

というわけで、チャレンジはアメフトの競技特性と実によくマッチした制度なのですが、
それだけにかえって、他の競技に導入可能かといえば、難しいんじゃないかと思っていました。
具体的には、野球にこの制度を導入できたら面白いんじゃないかな、
少なくとも、比較対象にして考えるたら、違ったものが見えておもしろいんじゃないかな、と。
個人的には、野球の「審判の判断が絶対」という現行のルールの理念は、
それはそれで筋が通ったものだからそれでいいのだ、とは思っていますが。
テニスもこれまでは「審判の判断が絶対」というスポーツだったので、
チャレンジ制度の導入は、ある意味で理念の大転換だったのではないかと思います。

スポーツにおけるルール改正は、しばしば競技の性格を大きく変えます。
フィギュアスケートにおける採点フォーマットの変更しかり。
柔道におけるポイントシステムと時間制の導入しかり。
バレーボールにおけるラリーポイント制の導入しかり。
テニスにおけるチャレンジ制度の導入により、なにかが変わるのか、変わらないのか。
「審判の判断が絶対」という競技はほかにもいっぱいありますが、それらの競技に与える影響はどうなのか。
注目して見て行きたいな、と思います。

それにしても、男子決勝のフェデラー×ナダルはすごい試合でした。
いやー、見ててよかった~。おかげでこんな時間ですが…(笑)。