『エリザベート』(東宝版)。

ミュージカル『エリザベート』(東宝版)@梅田芸術劇場 1月25日(日)
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽:シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詩:小池修一郎

エリザベート朝海ひかる
トート:山口祐一郎
ヨーゼフ:石川禅
ルドルフ:浦井健治
ゾフィー寿ひずる
少年ルドルフ:石川新太

先々週はフィギュア初め、先週はバレエ初め、そして今週はミュージカル初め。
こ、こんなはずでは…(苦笑)。
今週は、もともと観に行くかどうか迷ってたんですけど、
一緒に行ってくれる人が見つかったので行くことにしたんですよね。
非常に満足したので後悔はしていませんが、こんなことはさすがに今月だけのつもりです。

というわけで、見てきました東宝版『エリザベート』。
ウィーン版宝塚版と合わせ、これで完全制覇(?)です。
まずは過去の記事からあらすじをちゃっちゃと転載。

1898年、オーストリア皇后エリザベートは、ルイジ・ルキーニによって暗殺される。
暗殺の理由を問われたルキーニは、「彼女はトート(死)を愛していたのだ」と主張し、
エリザベートとトートの愛の物語を語り始める----。
ということで、以後舞台は、
エリザベートの少女?時代→皇帝フランツ・ヨーゼフとの出会い・結婚→
エリザベートと皇太后ゾフィの対立→結婚生活の破綻→皇太子ルドルフの自殺→エリザベート暗殺
と、ルキーニを狂言回しとして展開していきます。
で、エリザベートはヨーゼフとの出会いの前に、事故で大怪我を負って、
そのときに彼女のもとにやってきたトートと運命的な出会いを果たすわけです。

さて、前回宝塚版を見たとき、ウィーン版との大きな相違点を書きました。
1)ハプスブルク家の死者のお歴々が、オープニングのルキーニの裁判で登場
(それぞれの詳細は出ないが、コーラスに被さってルドルフのソロがある)
2)エリザベートの転落事故のあと、トートがエリザベートを見初める
3)ゾフィーは「皇太后」であるというより「姑」である
4)オーストリアナショナリズム高揚ではなく、ハンガリー独立運動の高揚が語られる

今回の東宝版も小池演出という点は変わらないのですが、内容はかなりウィーン版に近くなっています。
まず1)ハプスブルク家の描き方については、死者のお歴々は冒頭でも登場しますが、
宝塚版では省略されていたエピローグ直前の「沈みゆく世界の一角で」が、フランツの見る悪夢として復活。
2)は宝塚版そのまま
3)については後回しにして、先に4)について書くと、
オーストリアナショナリズム高揚とハンガリー独立運動の高揚の双方が描かれます。
つまり、宝塚版ではシンプルにエリザベート・トート・フランツの三者間の物語でしたが、
東宝版では「ハプスブルク王朝崩壊」という背景設定が復活している、ということです。

今回東宝版を見て思ったことは、
「これってストーリー設定としては『ベルサイユのばら』と同じだなー」
ということでした。
ベルばらの魅力の一つは、アントワネット&フェルゼンにしても、オスカル&アンドレにしても、
ただのラブストーリーではなく、革命という個人では抗いがたい激動の中での愛の形、
という点にあると思うわけです。
で、『エリザベート』でも、帝国の崩壊は(現代の私たちからすれば)歴史的事実という所与の前提ですし、
皇帝としての責務も、出自による逃れがたい定めです。
そういう個人ではどうしようもない状況の中で、エリザベートとフランツ、
そしてルドルフがどう生きたかというドラマなんだと思うんですよね。
これは個人的なことですが、自分はかなり外的要因による規制が少ない存在で、
かつ、そういう規制をされることを相当嫌う性質なので、
それだけに、登場人物たちにとても同情してしまうのかなー、と。

さて、3)ゾフィーは「皇太后」であるというより「姑」である についてですが。
こうなると必然的に、東宝版のゾフィーはウィーン版の人物造型に近くなり、
権威とか秩序とか儀礼とか、悪く言えば抑圧的な、擁護すれば社会維持のために存在する、
枠組みみたいなものを体現する存在となります。
そこには、彼女なりの正義や守るべきものがある。
その結果、エリザベートやフランツとの対比も非常にくっきりしてよかったように思います。
ゾフィー役の寿さんが、これがまた存在感のあるいい演技でした。
やっぱこの役はこういう押し出しがないとねー。
経歴を見ると宝塚の元男役の方らしく、なるほどと納得。

おっとそうそう、宝塚版ではなくなっていた売春婦&性病のエピソードも復活してました。
やっぱ宝塚的にはNGってことなんですかね(笑)。
そういえば、オーストリア(厳密にはオーストリアのドイツ人)のナショナリズム高揚の場面で、
ババーンと鉤十字の旗が登場し、ルキーニがちょび髭の扮装をしていました。
ウィーン版じゃそこまであからさまな演出じゃなかったように思いますが。
(てゆーか、ヨーロッパでそれはさすがに無理だよね…)

ストーリ全体についての感想としては、
「善意や好意や誠実さではどうにもならないことってあるよね」
ということに尽きるかと。
エリザベートとフランツの歌う「夜のボート」を聞くと、しみじみとそう感じます。
おかげで現在ずいぶんとメランコリックな気分です(苦笑)。
んん、でも好きだなー。音楽もすごく好き。
そして、結局やっぱり「トート閣下いらね」と思ってしまう私(笑)。

キャストに関する感想としては、エリザベート役の朝海ひかるさんが素晴らしかったです!
歌はもちろんのこと、娘時代から大人→老年への演じ分けが素晴らしい。
別の演目でまた見てみたいなー。
あとは、ルドルフが少年時も青年時も印象的。
少年ルドルフの石川くんはメチャかわいかったです。メロメロ(笑)。
青年ルドルフの浦井くんは、これだけ歌える美形君というのは得難い!
やっぱこう、「悲劇のプリンス」ってのはこうでなくっちゃねー。
他には、ハンガリー独立運動のリーダーであるエルマー役の中山さんが非常にカッコよかったです。
こういうリーダーのためなら、独立運動に身を投じるのもいいかも(笑)。