プライバシーと利便性。

確定申告の季節です。
特に、同業のみなさまはたいてい複数の源泉徴収票をお持ちなので、
この時期は書類とにらめっこされている方が多いでしょう。

近年は「e-Tax」でインターネット上での手続きも可能になりましたが、
僕も今年ついにe-Taxのみで手続きすることにしました。
住基カードを作るのが性に合わないのと、ICカードリーダを買うのが面倒だというので、
これまでは敬遠してきたのですが。

住民基本台帳ネットワークシステム」の制度的な問題点と利便性については、
これまでも社会的にさんざん議論されてきたので、特に独自の見解があるわけではありません。
ざっくりとまとめると、問題点はプライバシーの保護、利便性は各種手続きの簡素化・効率化です。
プライバシーの保護という点に関してさらに言えば、論点は二つのレベルにわたっており、
一つは「集めた情報の機密保持」、もう一つは「国が個人情報を集めることそのものの是非」です。
もっとも、前者の理由は方便のようなもので、これを唱える人が「完璧な機密保持システム」というものが
仮に存在すれば賛成するかというと、まあきっとそうはならないんだろうなあと思います。
要するに、反対の主たる理由はきっと後者なのであろう、と。

逆に、利便性に関して言えば、住基ネットによって提供される行政サービスとして、
お役立ち度が高く、かつ享受層が幅広いのは、せいぜい確定申告くらいのものです。
「システムの構築・維持費や個人情報流出のリスクに比して、サービスの内容が割に合わない」
という批判もしばしばなされます。
しかし、考えてみると、住基ネットを活用した行政サービスの内容が充実していない原因には、
住基ネットそのものへの反対があるわけで、おそらく上記の批判をする人の場合も、
じゃあ行政サービスが充実すれば住基ネットに賛成するのかといえば、答えはNOのように思います。

そもそも、プライバシーの保護と利便性というものは、相反する要素ではないのですから、
結局は兼ね合いのバランスをどの程度にするかという問題です。
個人的意見としては、そのバランスをもう少し利便性の方へ傾けても良いように思います。
せめて、年金と健康保険は税金と一元管理するべきであろう、と。
なにしろ、新たに国が情報を把握するようになるのではなく、
そもそも国の下にあるデータを一元管理するようになるだけなのですから。
あとは、できることなら選挙における電子投票もぜひ可能にして欲しいと思います。
投票率は確実に上がると思いますよ。

プライバシーの保護という観点はもちろん重要ですが、
「国が一定の個人情報を保持すること」そのものについては、ある程度は受忍するべきなのかなと思います。
そもそも、国なり政府なりというのは、個人にとってまったき他者なのでしょうか?
国が一つの共同体であるというのは一つの幻想かもしれませんが、
現在において、我々は国民国家の時代を生きているわけですし、
国という枠組みがあることで救われる弱者は少なからず存在します。
遠い将来、国という枠組みが解消される日が来るのかもしれませんが、
さしあたり現時点では、国という存在を受け入れた上で、
よりよいシステムの構築と運用とを目指すべきなのではないかと思います。