東京バレエ団・モーリス・ベジャール・バレエ団「第九交響曲」。
テキスト: フリードリヒ・ニーチェ
音楽: ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン
オリジナル美術・衣裳:ジョエル・ルスタン、ロジェ・ベルナール
照明:ドミニク・ロマン
衣裳制作:アンリ・ダヴィラ
指揮:ズービン・メータ
演奏:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
出演:東京バレエ団、モーリス・ベジャール・バレエ団
ソプラノ:クリスティン・ルイス
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
テノール:福井敬
バス:アレクサンダー・ヴィノグラードフ
パーカッション:J.B.メイヤー、ティエリー・ホクシュタッター(シティーパーカッション)
合唱指揮:栗山文昭
合唱:栗友会合唱団
◆主な配役◆
≪プロローグ≫
フリードリヒ・ニーチェのテキスト朗読 ジル・ロマン
≪第1楽章≫
柄本弾
上野水香
梅澤紘貴 三雲友里加
入戸野伊織 高木綾
岸本秀雄 奈良春夏
乾友子、渡辺理恵、村上美香、吉川留衣、岸本夏未、
矢島まい、川島麻実子、河合眞里、小川ふみ、伝田陽美
安田峻介、杉山優一、吉田蓮、松野乃知、原田祥博、
和田康佑、宮崎大樹、上瀧達也、山田眞央、河上知輝
≪第2楽章≫
キャサリーン・ティエルヘルム
大貫真幹
コジマ・ムノス、アルドリアナ・バルガス・ロペス、大橋真理、
沖香菜子/キアラ・ポスカ、クレリア・メルシエ
ヴァランタン・ルヴァラン、ウィンテン・ギリアムス、
ドノヴァン・ヴィクトワール、マッティア・ガリオト、アンジェロ・ペルフィド
≪第3楽章≫
吉岡美佳
ジュリアン・ファヴロー
リザ・カノ、ファブリス・ガララーギュ
ポリーヌ・ヴォワザール、フェリペ・ロシャ
ジャスミン・カマロタ、渡辺理恵/キアラ・ポスカ、
カルメ・マリア・アンドレス、アルドリアナ・バルガス・ロペス
スン・ジャ・ユン、エクトール・ナヴァロ、
ヴァランタン・ルヴァラン、ハビエル・カサド・スアレス
≪第4楽章≫
導入部
オスカー・シャコン
これまでの楽章のソリスト
柄本弾 大貫真幹 ジュリアン・ファヴロー
「歓喜の歌」
オスカー・シャコン(バス) 那須野圭右(テノール)
マーシャ・ロドリゲス(ソプラノ) コジマ・ムノス(アルト)
フーガ
大橋真理、ウィンテン・ギリアムス
アルドリアナ・バルガス・ロペス、エクトール・ナヴァロ
フィナーレ
アランナ・アーキバルド
モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団
アフリカン・ダンサー(特別参加)
◆タイムテーブル◆
14:00~15:30(休憩なし)
まさか生で見られる機会があろうとは思っていなかったこの演目。ありがとう東京バレエ団!
ドキュメンタリー映画「エトワール」で、パリ・オペラ座バレエ団が上演している映像を見て以来、
一度見てみたかったんですよね。
で、本来テノール(声楽)はペーター・スヴェンソンがキャストされてたんですが、
行ってみたら、来日してからなにやらアクシデントがあったらしく、代役がなんと福井敬!
しょえー、マジすか。アナウンスを聞いたときに、思わず声を上げてしまいましたよ。
まあだいたい、メータ&イスラエルフィルって時点で超豪華なんですけど。
さて開演。ちなみに、座席は3階席2列目センターだったんですが、
舞台だけじゃなくてオケ・合唱までしっかり全体を見渡せて、なかなか宜しかったです。
あんまし細かい表情とかを楽しむような演目でもありませんしね。
なにかと音響が残念という定評?のあるNHKホールですが、さほど気にはなりませんでした。
まあ、響きがいいという感じではありませんでしたけど。
で、オープニングはジルによるアジテイション。
第一楽章
第一楽章冒頭は、これを聞くと「ああ、第九が始まるんだなあ」という感慨を覚える和音の展開なのですが、
その調べに乗せて、「誕生とは絶望であり、絶望の中にすでに歓喜が内在する」という第九のテーマが、
ベジャールによってバレエとして提示されます。
全体に「春の祭典」を思わせる振り付け・構成でした。そういや、出だしの曲調は似通ってますか。
柄本くん&上野さんは、非常にいい感じでしたね!あとは梅澤くんが非常に目を引きました。
梅澤くんを見ていると、やはり「地位が人を作る」という面はあるのだなあと思います。
女性だと川島さんが印象に残りました。
衣装は実にシンプルな白のレオタードなんですけど、それだけに、スタイルのよさが際立つんですよね。
そこにいるだけで目が行くというのは、得がたい天賦の資質だと思います。
第二楽章・第三楽章
正直に言いますけど、すっげー眠たいんですよ、ここ(笑)。特に第二楽章。
合唱は、最近は第一楽章からずっとステージで待機することが多いんですが、
しばしば居眠り事故が発生する、ある意味難所です。
第三楽章の前に入場する場合は、第二楽章が終わるタイミングがわからなくて、
それはそれでハラハラするんですが(ひたすらリピートするから)。
オケがヤバ気だと、それはそれでハラハラするから目が覚めるんですが、
何しろ、今回は磐石のメータ&イスラエルフィルなので、心安らかに聞けてしまって(笑)。
大貫くんをはじめとする、BBLのダンサーを見たときの一番の衝撃は、
東京バレエ団のダンサーとの、筋肉のつき方の違いでした。
なんていうか、針金人形みたいな感じなんですよね、いい意味で。
カマキリみたいというか、連載再開後のFSSのGTMみたいというか。
要するに、骨格がそのまま立ってる感じなんです。体の厚みが違うのだろうか…。
こういう風に、一度の舞台で続けて見たことがなかったので、なかなか面白かったです。
規格がそろった感じの男性ダンサー(そういう意味ではジュリアンだけ異質)に対して、
女性ダンサーの方は、まったく規格化されてないフリーダムな感じで、これはこれで面白かったです。
割とみんなむっちり肉がついてて、しかもその付き方が一様ではないんですよね。
で、最後の第四楽章
いわゆる「歓喜の主題」を、オケが合唱に先立って奏ではじめるわけですが、
そこに第一・第二・第三楽章の各主題が合流していくのを、ダンサーを使って視覚的に示したところが、
この演目の中で、個人的には一番面白かったです。
バレエは、当然、音楽(聴覚)を踊り(視覚)で表現するわけですけど、
これをここまで明確に、いっそあざといほどに見せてしまうのが、ベジャールだなあ、と思いました。
上記の「エトワール」の中で、作品の解説を求められたベジャールが
「芸術に解説は不要だ」というニュアンスのことを答える場面があるのですが、それもむべなるかな、と。
ほんと、ベジャール作品に解説はいらないもんなあ。
……なのですが。
うーん、正直なところ、「合唱が始まるまで」の方が面白くて、
合唱に入ってからは、バレエの作品としてはいまいちでした。
明らかに、合唱の方がバランスとして勝っちゃうんですよね。
もちろん、それは、自分が第九を歌ったことがあり、歌詞の内容を知っているということがあると思うんですが、
それを抜きにしても、合唱の方が訴求力があったように思います。
というのは、演目の性質上、ダンサーの振り付けはシンクロ度よりもエネルギーが求められるわけですが、
そうすると、100人以上の合唱団が、メータの指揮に合わせてひとつのメロディを奏でているほうが、
パワーとして勝ってしまうんですよ。
しかも、第九のもっとも有名なフレーズ、「世界中のすべての人が兄弟になる」と歌うところで、
振り付けはなく、すべてのダンサーが横に並んで手をつなぎ、一歩ずつ前に進んでいきます。
(「バレエ・フォー・ライフ」の終曲、「ショー・マスト・ゴー・オン」と同じ演出)
歌詞の内容を尊重すればそうならざるを得ませんが、
それだと、やはり、歌詞の力、合唱の力が、勝ってしまいますよね。
というわけで、それも含めて、今回の演目は、結局「第九交響曲」が主役なのだなあと思いました。
それはそれで、公演としてすばらしかったので満足です。
12月にNHKで放送される予定のようなので、そちらも楽しみに待ちたいと思います。録画しなきゃ。