『ムーヴィン・アウト』。

ミュージカル『ムーヴィン・アウト』 8月12日18:00~@東京厚生年金会館(新宿)

【キャスト】
エディー:ラスタ・トーマス
ブレンダ:ホリー・クルイクシャンク
トニー:サム・フランケ
ピアノ/リードヴォーカル:ダレン・ホールデン
ジュディー:ローラ・フェイグ
ジェイムズ:スチュアート・キャップス
オレアリー巡査/軍教官:ジョシュア・バーギャス

原案・振付・演出:トワイラ・サープ
作詞・作曲:ビリー・ジョエル

【セットリスト】
・第一幕
『ロックンロールが最高さ』
『イタリアン・レストランで』
『ムーヴィン・アウト』
『夢(エステ荘)/ 素顔のままで』
『ロンゲスト・タイム/ アップタウン・ガール』
『今宵はフォーエバー』
『夏、ハイランドフォールズにて』
『ワルツ第1番 (ナンリーの回転木馬)』
『ハートにファイア』
『シーズ・ゴット・ア・ウェイ』
ストレンジャー
『エレジー(偉大な反戦家の悲歌)』

・第二幕
『インヴェンション(ハ短調)』
『怒れる若者』
『ビッグ・ショット』
『ビッグ・マン・オン・マルベリー・ストリート』
『キャプテン・ジャック』
『イノセント・マン』
『プレッシャー』
『グッドナイト・サイゴン~英雄達の鎮魂歌(レクイエム)』
『エール(ダブリン風)』
シェイムレス』
『ジェイムズ』
『リヴァー・オブ・ドリームス/ キーピン・ザ・フェイス/ 若死にするのは善人だけ』
『楽しかった日々』
『イタリアン・レストランで』(リプライズ)

というわけで、見てきましたムーヴィン・アウト。
いやー、良かったです。堪能しました。
まずもって、ビリーファンは曲を聴いただけでオールOKという気分な訳ですが(笑)。
でもねー、曲聴いて、訳詞をちらっと目で追う(頭の中では英詞を同時再生)んですけど、
やっぱいいです。メロディも歌詞も。
何たって歌詞が深い!おおむね初期の曲→後期の曲という構成なので、
歌詞の内容が、より一般的・普遍的な方向へと広がっていった過程がわかって面白かったです。
そして、叙事的な歌詞は言葉が本当にきれいで、情景がいきいきと浮かび上がってきます。

しょっぱなが‘イタリアンレストランにて’なんですが、
この曲はある意味でビリーの最高傑作だと思ってます。
イタリアンレストランで食事をしている同級生の二人。
ワイン選びから、話は同期のキングとクィーンのカップルのほろ苦い思い出へ。
かつてのグッド・オールド・デイズ、60’Sのアメリカにしかない世界
(というか、アメリカ人と日本人がともに描く幻想の像かもしれませんが)を描いた曲としては、
最高の曲の一つだと思いますね。

で、バラードの一曲一曲がまたいいし、
舞台なので、シチュエーションや取り合わせでまたグッと来てしまいます。
今回一番ヤラレタのは、
ベトナムでの戦闘シーンでの‘ハートにファイア’から
‘シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン’のところ。
もともと大好きな曲なんですけど、アップテンポな曲・ハードな場面の次にぶつけられて、
破壊力倍増っすよ。ほんま泣きそうになりました。
場面がまたいいんです。
かたやアメリカで、かたやベトナムで、別の異性と触れ合う二人。
その一方で、「やっぱりあの人じゃない」と思い悩む。
よくある話?そう、だからこそ、誰もが自分を重ね合わせるのではないでしょうか。

で、ヴォーカルがまたすばらしかったことと言ったら!!
メインのダレン・ホールデンもものすごく良かったですし、
『イノセント・マン』の高声部のみで登場したマシュー・フリードマンがこれまた絶品。
『イノセント・マン』になった瞬間、「そういやこの曲ヴォーカル二人いったけどどうすんだろ?」
旧ソ連でのライブのCD『コンツェルト』などで歌っています)と思ったのですが、
めちゃめちゃキレイな高音でマシューが入ってきて、すばらしい響きになっていました。
「このヴォーカルにしてこの公演あり」と言っていいでしょう。
なんせ曲以外はセリフ全くなしのミュージカルですから。

で、一方のダンスですが、これまた最高。
まずもって、いかにもアメリカーンというかブロードウェイ的なキメっぷりに虜ですよ(笑)。
ブレンダ&トニー(ホリー・クルイクシャンクとサム・フランケ)ががたいガッチリ系でしたが、
もうお二人とも惚れ惚れするような筋肉。ステキ~☆
でジュディー&エディー(ローラ・フェイグとラスタ・トーマス)がわりと小柄系だったのですが、
ジュディーはちょっと可憐な感じ、エディーは小柄でも体は筋肉バリバリで、
なんだか鉄砲玉のようなキレの良さがカッコよかったです。
特にラスタ・トーマスの飛びっぷり・回りっぷりはすごかった。さすが!

振付自体もとても面白かったです。
クラシックバレエ的な部分、ダンス的な部分、最近流行の武術系の体の動きなど、いろいろ楽しめました。
踊り自体は2幕の方が楽しめましたね。
ソロとかパ・ド・トゥとか、じっくり見せる踊りがたっぷりあって。

全体の構成もよくできてるんですよね。
華やかなりし60年代、ベトナム戦争の暗黒とその後…。
ヘヴィーなテーマに、真正面から向き合っています。
逆に言えば、ビリーの曲の変遷は、そのままアメリ現代社会の変遷だということであり、
彼の曲がいかにアメリカの社会とまっすぐ向き合ってきたのかということなのでしょう。
あらためてこうして見て、『グッドナイト・サイゴン~英雄達の鎮魂歌(レクイエム)』は
本当にシリアスで思い曲だなあと実感しました。
そして、この曲をライブで必ず歌う彼の心持も、再確認できたような気がします。

そしてトワイラ・サープは、彼の曲を丹念に読み込み聞き込んで、
見事に再構成することに成功した、ということだと思います。
だって実際、シングルカットされていないような、結構マニアな曲も使われてますからねえ。
ただ、最後、『ジェイムズ』から『リヴァー・オブ・ドリームス/ キーピン・ザ・フェイス/
若死にするのは善人だけ』へと急激にビバビバモードに突入された時だけは、
テンションについていけずに一瞬振り落とされてしまいましたが(苦笑)。
いやー、絶対ハッピーエンドになるってのはわかってたんだけどな~。でもな~(笑)。

それにしても、たとえどんなにノリノリの曲であっても、どんなにバンドメンバーが煽っていても、
客席が全く手拍子とかをしないのにはビックリしました。
うーん、この辺はライブ感覚で楽しんだ方が絶対美味しいと思うんだけどなー。
劇団四季のミュージカルとかでも、普通に手拍子とか出ますよねえ。
こないだの『バレエ・フォー・ライフ』といい、なんだかちょっとつまらないです。
みんなもっと楽しもうよ~。

というわけで、大満足の公演でした。
これ、ブロードウェイでも再演は難しいんだろうな~。
これだけのダンサー、ピアノ&ヴォーカル、バンドを揃えなきゃいけないんですから。
来日公演があって、そしてそれを実際に見に行けて、本当に良かったです。

というわけで、気分はすっかりビリー一色に染まってしまっております。
来日公演も東京まで行く気満々(笑)。行けたらいいな~。