東京バレエ団『ザ・カブキ』。

東京バレエ団『ザ・カブキ』@東京文化会館 1月23日
振付:モーリス・ベジャール 音楽:黛敏郎
由良之助: 高岸直樹
直義: 後藤晴雄
塩冶判官: 平野玲
顔世御前: 斎藤友佳理
力弥: 鈴木淳
高師直木村和夫
伴内: 高橋竜
勘平: 大嶋正樹
おかる: 長谷川智佳子
現代の勘平: 長瀬直義
現代のおかる: 高村順子
石堂: 宮本祐宜
薬師寺: 野辺誠治
定九郎: 松下裕次
遊女: 井脇幸江
与市兵衛: 山口優
おかや: 坂井直子
お才: 西村真由美

というわけで、東京でのお目当てはこれでした。
ストーリーは公演情報のページが非常に良くできているのでコチラをご覧下さい。
要は『仮名手本忠臣蔵』のバレエ化と思っていただければよろしいかと。
もうね、この作品はほんっとうに素晴らしいです。
初めて見たのは3年前の大阪国際フェスティバルでの東京バレエ団の公演でしたが、
あの時もものすごく感動したし、今回もその素晴らしさを再認識しました。

役名と実名が一致しない方のために一応対応させておくと、
由良之助=大石内蔵助、塩冶判官=浅野内匠頭高師直吉良上野介です。
浄瑠璃を書く時に実名で作品化するとお上から怒られてしまうので、
塩冶判官の奥さんに高師直が横恋慕した(で、そのときの恋文の代筆をしたのが兼好法師)という
太平記』の中のエピソードを借用してきた、と言うわけ。
と同時に、『太平記』中の忠臣イデオロギーが導入されてる、という点については
兵藤裕己『太平記〈よみ〉の可能性』をお読み下さい。

とは言うものの、そもそもの『忠臣蔵』を通し狂言で見たことがないのですが。
浄瑠璃との対応関係を調べてみたんですが、こんな感じ?

プロローグ:現代の東京 ― (なし)
第一場:兜改め     ―  大序
第二場:おかる、勘平  ―  三段目
第三場:殿中松の間   ―  三段目
第四場:判官切腹    ―  四段目
第五場:城明け渡し   ―  四段目
第六場:山崎街道    ―  五段目・六段目
第七場:一力茶屋    ―  七段目
第八場:雪の別れ    ― (なし?)
第九場:討ち入り    ―  十一段目
浄瑠璃の方はコチラを参照しました)

一言で言ってしまうと、本筋とおかる・勘平のエピソード(山崎街道)を取り出してきて、
力弥・小浪のエピソード(山科閑居)は省略した、と。

調べてみるまで気が付かなかったんですが、実は「雪の別れ」はベジャールによるオリジナルの挿入?
この場面、顔世が由良之助にあだ討ちをするよう必死に願うかなり重要な場面で、
討ち入りの前に由良之助のかなり長いソロが入ります。
これがまあ言ってみれば由良之助の内面の表現。
この作品の由良之助は、そもそもは現代人でありながら歴史上の事件に巻き込まれた存在であり、
また、主君の起こした事件によってお家断絶となり、あだ討ちをせざるをえない状況に追い込まれたという、
言わば二重の意味で「巻き込まれた人」なわけで、それが端的にこの場面に現れてくるわけです。
(そして、ここでの高岸さんのソロがまた実に素晴らしい!!)
全体の構成上も、圧巻のソロから一気に討ち入りのクライマックスへ、という重要な位置付け。
うーん、ここがベジャールオリジナルなのか~。
そもそもの浄瑠璃のストーリーがものすごく良く出来ているのですが、
そこにさらに一ひねり入れてくるあたり、さすがはベジャール

空間構成等も実に美しいです。
忠臣蔵』に限らず、歌舞伎全般を見たことがあまりない人間ですが、
それでも振付を見ていると、「歌舞伎でありつつバレエ」だなあと。
まったく違和感なく歌舞伎の所作がバレエとして取り入れられています。
舞台装置も、定式幕も使い(ちゃんと舞台の上の方に芝居小屋の屋根を描いた別の幕がある)、
他にも例えば「城明け渡し」の仇討ちの盟約の場面で上からババーンと
いろは四十七文字が書かれた白布が降って来たりして、
ものすごくうまく場面転換や舞台の分割をやってのけます。
いつもながらスゴイなーと感心することしきり。
黒子のシステムとかもしっかり活用してますしね。
で、なんといってもその中での白眉は、討ち入りのシーンでのフォーメーション。
左右の袖から9人・8人・7人…2人と登場して、由良之助の左右を固める人が一人ずつ登場して、
最後に由良之助が登場。
そうすると、

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● ● ● ● ●     →客席
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という実にキレイなフォーメーションが完成!
(部分写真はコチラの左側)
もうねー、見た瞬間、深々と感嘆のため息が出ますね。
素晴らしい、の一言。

(長くなったので、続きは後ほど)