よしながふみ『大奥』。

今月は待ちに待ってたとあるマンガの新刊が出ました。
https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/a5/64/historian126/folder/729019/img_729019_51060363_0?2007-12-22 23:37:34
よしながふみ『大奥』です。
公式の紹介サイトはコチラで、web上で試し読みもできます。
内容を一言で説明すると、「男女逆転大奥」がそのものズバリ。
友人から話を聞いた時には「それってギャグマンガ?」と思ったのですが、
(ついでに正直に言うと、単なる便乗ものかと思いました)
とんでもなかったです。これがめちゃめちゃ面白い('fun'ではなくて'interesting')。

「男女逆転大奥」という設定ですが、いわゆる「史実」はあまり改変していません。
話のスタートは8代将軍吉宗の登場時点なのですが、
家光編に移行してからは、3代将軍家光(※作中では父家光→娘家光なので実質4代目)の時に
いかにして「男女逆転大奥」が成立するのかを描いています。
この設定も良く出来ていて、そもそもなぜ大奥という制度が作られたのかというところから始まって、
鎖国末期養子の禁・田畑永代売買禁止令といった史実を、
なるほどねーという形で実に上手く説明している。
吉宗とオランダ商館長との会見シーンなんかも芸が細かいです。

これまでの「男女逆転もの」の系譜を辿ると、
「精神はそのままで体だけが入れ替わる」(『おれがあいつであいつがおれで』)とか、
「何らかの事情で生物学上の性を社会的に偽る」(『とりかへばや物語』・『リボンの騎士』・
ベルサイユのばら』…ほか多数)とかがあると思うのですが、
多くは社会の枠組みはそのままに、個人の性のみが逆転します。
ところが『大奥』の場合、生物学的な性はそのままに、社会的な性の枠組みがひっくり返ってしまうわけです。
そして、そういう状況設定をした上で、大奥という生の営みを目的とした空間を舞台にすることで、
人間が社会的にどういう役割や枠組みに組み込まれているのか、とか、
あるいは人間の肉体が人間の精神をどんな風に規定しているのかが、すごく鮮やかに描かれる。
これはものすごい設定の妙だな、と思います。

キャラクターの描き方も実に面白いです。
吉宗編では加納久通がいい味出してます。というか、こういう人はすごく好みです(笑)。
家光編では…やっぱり有功が印象的なんですかね。
うらみつらみや暗黒面まで引きずって、とことん「いい人」を貫いて生きていくんでしょうね、この人。
自暴自棄になって部屋中のものに切りつけても、廊下側の障子にだけは切り付けられない、というところに、
同情と共感がない交ぜになったものを感じます。
ま、私の場合はこういうイケメンとはかけ離れた存在なので、縁のない話ではありますが…。

難点はこれ、連載誌が白泉社の『メロディ』という雑誌なんですが、隔月発行なので、
話の進行スピードが「年間1巻」ペースなんですよね。
というわけで、次の新刊が出るまでまた1年待たなくてはなりません。ああじれったい(笑)。
成田美名子花よりも花の如く』も読んでるし、
今は読んでないけど川原 泉『~がある』シリーズや魔夜峰央パタリロ源氏物語!』も興味はあるので、
いっそ本誌の方で連載を追っかけようか…と考えないでもないんですが。

まあ逆に言えば、後から追っかける方も簡単に追いつけるということではあるので、
未読の方はぜひどうぞ。オススメです。