筒井康隆『七瀬ふたたび』。

今週からいよいよNHKのBSで『タイタニア』の放送が始まりますが、
地上波では筒井康隆の『七瀬ふたたび』をドラマ化するんですね。

筒井康隆『七瀬ふたたび』は、いわゆる『七瀬3部作』の第2作です。
以前も書いた通り、この3部作、筒井作品の最高傑作だと思っていますが、
SF作品としても、超能力物の金字塔だと思っています。

あらすじはというと、
主人公の美貌の女性火田七瀬はテレパス(読心能力を持つ超能力者)なのですが、
その能力を世間から隠すため、職と家を転々と変えながら生活しています。
そのために最初に選んだ職業が「住み込みの家政婦」で(そしていろいろ見てしまう 笑)、
彼女の目を通してさまざまな家庭・人間のあり方を描き出したのが、第1作の『家族八景』。

次に七瀬はホステスとなり、さらには読心能力を活かしてマカオのカジノで金を稼ぎ生活するようになります。
(ディーラーの心を読むことでルーレットの出目を当てる)
生活していく中で、同じくテレパスのノリオ、予知能力者の岩淵恒夫、透視能力を持つ西尾、
念動力者のヘンリー、時間移動能力者の漁藤子など、七瀬は他の超能力者と出会いますが、
やがて超能力者抹殺を図る組織に狙われることとなり…というのが第2作の『七瀬ふたたび』。

第3作の『エディプスの恋人』については、『七瀬ふたたび』のネタバレにもなるのであまり書きませんが、
筒井康隆的に「神とは何か」を書いた作品、といえるかもしれません。

という3部作なのですが、雰囲気としては1作目は人間批評、2作目はハードボイルド調、
3作目は実験小説的、といった感じです。
というわけで、よく映像化されるのは2作目の『七瀬ふたたび』で、
これまでに3度ドラマ化されているようです。

…なんですが~。
うーん、正直、この作品は映像化に向かない気がするんですよねー。
というのは、これも以前書きましたが、この作品の値打ちの一つは、
 「人間の複線的思考を、文字によって同時的に表現する」という難事をやってのけた
という点にあると思うからです。
で、これを映像化すると「読心能力」というものがどう表現されるかって、容易に想像が付いちゃいますよね。
やっぱりこの部分で、一つつまらなくなってしまうよなーと思うわけです。
なので、ドラマ自体は私は多分見ません。

ただ、ドラマのHPで、作者の筒井康隆のメッセージが掲載されていて、
これには「なるほどな」とあらためて思いました。
七瀬たちは、自分たちが他の人たちと違うことを、けんめいに隠そうとする。何故か?
今、日本の学校、公園、職場などで起こっている不幸は、七瀬たちを襲う不幸と同じものだ。
これを書いたのは35年以上前だが、今の社会状況を予感していたように思う。
そう、つまりこの作品世界における「超能力」とは「他者」を表すための記号なのであって、
メインテーマそのものではなく、主題は「他者を異分子として排除しようとする人間の心性」にある、
ということでしょう。
「超能力」は、たとえば「血筋」や「障害」や「貧困」などと同列のものである、ということです。
アメコミチックな「ヒーローもの」的要素は、まったくもってありませんしね。
読んでいて一番印象に残るのは、超能力者を敵視し、抹殺のために手段を選ばない
組織の人間の不気味さですから。
ただ、昔は、その不気味さに通じる要素と自分に内在するものとの間の共通性みたいなものに
思いをいたすような読み方はしませんでしたが…ふうむ。

というわけで、小説の方はぜひオススメの作品です。