やさしさはなぜ怖い。

「まんじゅう怖い」というお話…ではなくて。

冬の楽曲が心に響く季節になりました。
ちょっとこう、コートの肩をすぼめてため息つく感じがいいんだよな~(←軽度のマゾヒズム?)
で、むかーし、とあるところで、かぐや姫の『神田川』が話題になっていたのを見かけたのですが。

若かったあの頃 何も怖くなかった
ただ貴方のやさしさが 怖かった

「やさしさが怖いってどういうこと?意味わからん」みたいな感じで。


えー、この曲で歌われているカップルは、「三畳一間の小さな下宿」に住んでいますから、
「若かったあの頃」というのは、きっと学生時代の話ですね。
で、あの頃を回想しているのですから、今はきっとそれから数年経過している時点です。

さて、この曲で歌われているカップルは、今歌っている時点でまだ付き合っているでしょうか?
おそらく答えはNoでしょう。
というのは、「貴方はもう忘れたかしら」という歌いだしからして、
おそらく歌っている私は、貴方の現在を知らないのだと思われるから。
というわけで、この曲はきっと、女性が学生時代の恋愛相手とのことを回想している歌でしょう。

つまりこの女性は、結局添い遂げることはできなかったという結果を知った上で、
過去を思い返している、ということになります。
で、幸せだったあの頃にも、そういえば貴方のやさしさがわけもなく怖く思えたことがあったなあ、と。
多分その恐怖感は、そのやさしい貴方を失うことへの恐れ、ですよね。
学生時分の恋愛って、当人達は「いつまでも一緒」と思っているわけですが、
結果から行けば、そうならないことの方が多いでしょう。
少なくとも、社会に出て、就職して、というプロセスを通過しなければいけません。
そういうことを当事者は同時的に意識しているわけではないけれど、
あとになって「そういえばあの時…」と苦味をかみ締めているのがこの歌ではないか、と。


とまあ、そんなことを考えていたんですが、最近になって、
「ああ、これってB'zの『いつかのメリークリスマス』と同じじゃん」
と、はたと思ったんですよね。

部屋を染めるろうそくの灯を見ながら 離れることはないと
言った後で急に 僕は何故だかわからず泣いた

このとき「僕」は、リアルタイムでは自分が泣いてしまった理由がわからなかったわけですが、
この曲の場合、その理由はちゃんと後で明示されます。
いつまでも 手をつないでいられるような気がしていた
何もかもがきらめいて がむしゃらに夢を追いかけた
君がいなくなることを はじめて怖いと思った
このカップルの場合も、もちろん(?)添い遂げることなく別れを迎えているはずです。
なんたって「色褪せたいつかのメリークリスマス」ですから。

というわけで、どちらも名曲ですが、
その「苦味」みたいなものは、きっとある程度年経ないと実感的にはわかんないんだろうなーと、
今にして思う今日この頃です。

神田川』のカップルはおそらく貧乏学生ですが、
いつかのメリークリスマス』の場合、学生よりは、きっと若い会社員同士とかのような気がします。
お互いの一人暮らしの生活がある程度確立しているような。
このあたり、同じようなモチーフでも、それぞれの曲の時代背景の違いが反映されているように感じます。
神田川』のヒットした1973年だと、20代前半で結婚するのがある程度当たり前だったと思いますが、
いつかのメリークリスマス』の1992年だと、晩婚化がもうかなり進んでいる頃ですからねー。