『カムイ外伝』。

えーっと、全然知らなかったんですが、『カムイ外伝』が実写映画化されるんですね。
本編ではなく外伝がヴィジュアル化の素材にされる理由は、よくわかる気がします。
カムイ伝』の第一部がマンガ史上に残る傑作であることは間違いないのですが、
テーマが重厚かつ壮大すぎて、作品単体としては必ずしもきれいに落ちていないんですよね。
第二部は個人的には大好きな作品ですが、構想として破綻している面は否めない。
その点、外伝は視点がカムイのみに絞られているので、非常にすっきりしているんですよね。

テーマ的には、
第一部…権力によって構築された身分構造、虐げられる人々の団結・闘争と分断・挫折
第二部…夢破れたインテリの思想的漂流と試行錯誤(うーむ…)
と、社会性が非常に強いのが本編の特徴ですが、
その点外伝のテーマは、ひたすら忍びの世界の過酷な掟、カムイの闘いと孤独なので、
ある種のロードムービー的なつくりなんですよね。『子連れ狼』とかに通じるような。
だから、テレビアニメ版(1969年)のように一話完結のシリーズにもできるし、
ある程度の中編になっている部分を劇場アニメ版(1971年)にもできる。

で、今回の映画版の話。
やっぱりと言うかなんというか、素材は女抜け忍スガルが登場する「スガルの島」というエピソードです。
原作(小学館の単行本版)だと4・5巻にあたります。
1971年の劇場アニメ版も同じエピソードです。
このエピソードが選ばれる理由はおそらく2つ。
 1 抜け忍の孤独を描く際のキーワードとなる「猜疑心」が見えやすい
 2 主要キャラに女性が登場する
興行的には2は大事な要素でしょ~。基本的に殺伐としたムサい作品だからなあ(笑)。

が。
こっからは原作を読んでないとわからない話なので「読んで下さい」としか言いようがないのですが、
お読みになったことがある方ならわかるように、
「スガルの島」のオープニングはとんでもない場面から始まります。
で、引き続いてスガルVS追忍のバトルになるのですが、スガルさんは腰巻一枚で格闘します。
表紙のスガルさんもそのまんまの姿です。
だいたい、白土作品の女性描写は
「前近代社会における女性の虐げられている面を、もっともリアルに生々しく描くとこうなります」
という感じなのです。
現在の環境でこれらのシーンを映像化すると、まず間違いなくR指定をくらうでしょう。
Vシネでもここまではやれないんじゃないかな~。

じゃあアニメ版はどうだったかというと、実は製作時点でこのエピソードはまだ連載されておらず、
原案のアニメ版を受けてさらに連載作品化された、という順序です。
で、原作のヤバいシーンはこのときに付け加わったもので、
アニメ版にはないんですが、バトルシーンそのものはちゃんとあります。
で、これも原作を読んだことがある人はご存知の通り、
作品が漁村を舞台にしているだけに、必然的にヌードシーンが男女問わずバンバン登場するわけですが、
なんとこれらのシーンは劇場アニメ版の時点からちゃんと存在しています。

これ、今年の2月に杉並アニメーションミュージアムではじめて見たんですけど、まあビックリしましたね。
多分アニメ初の女性のヌードの映像化ではないでしょうか。
対象とする年齢層がさっぱりわかりません。
明らかに子供向けじゃないけど、だからってまだ大人がアニメを見に映画館に足を運ぶ時代でもないだろ~。
リアルタイムでご覧になった方がいらっしゃったら、ぜひ体験談を聞いてみたいものです。
てゆーか、もちろんちゃんと映倫のチェックを通ってるんですけど、
映倫的にはあれはOKだったんですかね?まったくもって基準がわかりません(笑)。

で、今回の実写化に話を戻して。
あらすじを見る限り、冒頭のヤバいシーンはすっ飛ばすんでしょうね~。
まあそうだよな、あれをこのご時勢にやるというのは無理だよなあ。
ただし、スガルとカムイが「ただの行きずりの抜け忍同士」か「もと仲間」かは
ストーリー的にはえらい違いのはずなんですが…。
その他のシーンがどうなるかですが、まあ原作そのままとはならないんだろうな。

こんだけ延々と書いてきましたが、たぶん僕は見ないと思います。
好きな作品ほど、特に実写化に対してはやっぱり抵抗があるんですよねー。
結局『どろろ』も『SHINOBI』(原作は『甲賀忍法帖』)も見てません。
アニメ版は多少は見たんですけどね(『甲賀忍法帖』のアニメ版=『バジリスク』)。
まあなんていうか、やっぱりメディアの特性に対する向き不向きはあると思うんですよ。
マンガなり小説なりというのは、各種商業映像に比して「毒」の許容量が大きいのだと思います。