崩壊・大学院重点化。

文科省:大学政策を転換 博士課程の定員削減など通知毎日新聞
 大学院博士課程の修了者の就職難が問題化していることなどを受け、文部科学省は5日、全国の国立大学に対し、博士課程の定員削減を要請する通知を出した。これまでの大学院重視の政策を大きく転換することになる。また、少子化を踏まえて教員養成系学部の定員削減なども要請しており、現場のリーダー養成を目指して08年度に始まった教職大学院制度にも影響を与えそうだ。【加藤隆寛】
 文科省は通知で各大学が6月中に素案をまとめる10年度からの中期目標(6年間分)に反映させることを求めている。
 国立大学大学院の博士課程の定員は1万4116人(09年度)。通知では「定員未充足状況や社会需要の観点などを総合的に勘案し、教育の質確保の観点から定員・組織などを見直すよう努めること」を求めた。文科省はこれまで、研究拠点を大学の学部から大学院に移す「大学院重点化政策」を進めてきた。しかし、就職難への不安などから地域や分野によっては定員割れが相次いだため、政策を見直すことになった。
 また、教員養成系学部については、少子化による需要減や採用数の動向などを踏まえた定員見直しを要請した。教員養成をめぐっては教職大学院の制度が08年度に始まったばかりだが、今回の需要減を前提とした学部定員の見直しは、こうした新しい教員養成を担う大学院制度運営のあり方などを左右するとみられる。
 新司法試験合格率が低迷している法科大学院も見直しの対象とし他学部なども「必要に応じて見直すよう努めること」とした。
 文科省は通知について「一律に削減を押し付けるものではなく、各大学が身の丈に合った経営を考える契機としてほしい」としている。同省は今後、大学間で大学院を統合するなどの組織再編も含め、見直しを進める大学への財政支援の仕組みなどについて検討を進める。
やっときたか、という感じです。
自分も大学院重点化が始まってからの進学者ですが、
特に国立大学の独立法人化が行われて以後の大学院の惨状はひどかったですからね。
もちろん良く出来る人たちもいるんですが、全体の傾向として。

そもそも、大学院に進学する人は、進学時点で
 1.研究職に就きたい
 2.教育職に就きたい
 3.技術職に就きたい
という、どれかの志望をもっているべきもののはずです。
ところが、
 4.就職口が見つからない・まだ就職したくない
という(個人的にはまったく理解しかねる)理由で大学院進学を希望する人が、
世の中には結構な数存在します。

で、昔はこの4の理由で大学院を受ける人たちは、たいてい院試でふるいにかけられていたのですが、
大学院重点化が進んでからは、こういう人たちも院試を通ってしまうようになりました。
というのは、定数の枠がある以上、受験者を上から順にその人数取らないわけにはいきません。
また、予算配分は基本的に構成員の数で決まるので、
仮に「取っても見込がないから」(能力的な理由も含めて)という理由で定数分の人数を取らないと、
それが自分の不利に跳ね返ってきてしまいます。
そんなわけで、本来大学院に来るべきではない人たちが院に進学する、という事態が起こったわけです。
(このあたり、「少子化社会における大学入試」と、事情も結果もほぼ相似してます)


いやね、正直なところ、それで間違って大学院に来てしまった人たちが路頭に迷っても、
個人的には知ったこっちゃないですよ。
第一、間違わずに大学院に来た人だって、等しく路頭に迷っているんですから(笑)。
それと、「1~3の理由で院に入ってみたけど、自分の進むべき道じゃないとわかったから
やっぱり就職する」という選択も、批判するつもりはまったくありません。

私が批判したいのは、特に4の理由で大学院に進学した人が、
大学院での教育や研究の水準を下げてしまうことです。
「私は研究者になるわけじゃないから、このレベルの発表でかまわない」とか、
「私は就職するから、就職活動で演習はお休みします」とか、
そういうエクスキューズを口にせずとも態度で示されると、ふざけんな!と思うわけです。
大学院の水準は、きみたちのレベルに合わせて存在するのではなく、
研究者を養成するために必要なレベルに設定してあるのだよ、と。

いかなる理由で大学院に進学するのであれ、進学したからにはさまざまな場面で研究者志望の人間と
同じ水準のものが要求されてしかるべきだと思いますし、
またそうでなければ、大学院に進学した意味も値打ちもないでしょう。
いい加減な動機で大学院に入ってきて、レベルと士気を下げて出て行かれるのは、
大学院に残りたい人間としてははなはだ迷惑です。
さらに言えば、上記のように院試が試験としてはゆるゆるになったことで、
受験するかどうかを決める時点で受験者に問われる覚悟というハードルも低くなり、
こうした傾向に拍車がかかっている面も否めません。

大学院の現在の惨状を見るに、大学院重点化の崩壊は遅きに失した観がぬぐえません。
ゆとり教育に関してもそうですが、ほんと文科省はろくなことをしないな…。
これならいっそ、仕事をしないでいてくれた方がマシですよ。
あと、そもそも理系と文系同一のシステムで大学院を運営するやり方についての不満は多々ありますが、
それについては別の話になるので省略。