今年の『ローマ人の物語』は「キリストの勝利」。

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ここ数年、年末になると毎年気になっているのは、
「『ローマ人の物語』は無事に今年も出るのか?」ということ。
今年はどうなんだろと思って、新潮社のHPを見たら、ちゃんと新刊案内が!
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キリストの勝利―ローマ人の物語XIV― 塩野七生 28日発売/2730円
ローマ帝国はついにキリスト教に乗っ取られた――四世紀後半、帝国繁栄の基礎だった「寛容の精神」は消え、異教を認めぬキリスト教が国教の座を占めるに至った。それはいかにして実現したのか。
http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/200512.html#1
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28日発売予定って、ほんまギリギリですね~(笑)。でも、無事に出るようで良かった良かった。
このシリーズ、そもそもはだいたい年の半ばに出ていたのですが、途中から年末ぎりぎりになりました。
下に一覧表を作ってみましたが、これを見るだけでもなかなか面白い。

ローマは一日にして成らず(ローマ草創期)               92年7月
ハンニバル戦記(ポエニ戦争)                     93年8月
勝者の混迷(グラックス兄弟ポンペイウス)              94年8月
ユリウス・カエサル ルビコン以前(カエサル前期)           95年9月
ユリウス・カエサル ルビコン以後(カエサル後期~アウグストゥス即位) 96年3月
パクス・ロマーナアウグストゥス)                  97年7月
悪名高き皇帝たち(ティベリウス~ネロ)                98年9月
危機と克服(ネロの死~ネルヴァ)                   99年9月
賢帝の世紀(トライアヌスハドリアヌス・アントニヌス=ピウス)    00年9月
すべての道はローマに通ず(ローマのインフラ)             01年12月
終わりの始まり(マルクス・アウレリウス~軍人皇帝時代初め)      02年12月
迷走する帝国(軍人皇帝時代)                     03年12月
最後の努力(ディオクレティアヌスコンスタンティヌス)        04年12月

塩野さん自身が述べている通り、もともと塩野さんが一番書きたかった人物はカエサル
なので、カエサルに関しては2巻分があてられています。
で、多分そこまでは書き始めの段階である程度構想はあったんですよね。
ルビコン以前」を書いた時点で、もうカエサル後半生の見通しはついてたから、
ルビコン以後」の出版はとても早い(いつもより早く出たもんでビックリした記憶あり)。
で、そっから帝政期のローマをどう描くかの時間が必要になって、いったん仕切り直し。
帝政期の基盤になったアウグストゥスの分析と位置付けに苦労したんだなあというのは、
パクス・ロマーナ」を読んでいると良くわかります。

で、「賢帝の世紀」までは比較的すんなり来たわけですが…ここで予想通り止まったんですよね。
01年の12月に外伝的内容の「すべての道はローマに通ず」が来たので、
「1年時間稼ぎしましたね」って正直思いました(笑)。
なぜここでいったんストップしたのが予想通りだったかというと、
ここから古代ローマ帝国の滅亡がはじまるわけで、
端的に言えば、ここまでは誉めておけば良かったのが、
こっからは「なぜそのローマが滅んだのか」という問いに答えなくてはならないし、
その答えの内容が、全体の評価を決めてしまうからです。

でも、待った甲斐がありましたとも!
「終わりの始まり」で、ローマ衰亡の端緒は全盛期であったはずのアントニヌス=ピウス期にあった、
という見解は、びっくりもしたし、非常に納得のいくものでもありました。
ただし、やっぱり読んでると、行間から塩野さんの苦渋がにじみ出るのは致し方なし(笑)。
本文読まなくても、帯見てるだけでそれはわかる。
「もはやローマの衰退は止まらない」とか、「ローマが「ローマ」でなくなっていく」とか。
多分それは、ローマという国が滅ぶことへの悲しみではなく、
文化的・宗教的寛容さや合理主義といったローマ的精神が失われ、
「暗黒の中世」が到来することへの哀惜の念でしょう。

はっきり言って、西洋史の専門家のみなさまが塩野さんの著作をどう読んでいらっしゃるのかはわかりません。
多分、専門家から見たらいっぱいアラがあるんだろうなあという気はします。
でも、歴史学を志す人間として、また、物を書くことを志す人間として、
塩野さんはある意味で、私が一番影響を受けた人と言えるかもしれません。
(誤解のないように書いておくと、専門家として最も影響を受け、また目標としている存在は、
 師匠であるM先生であり、師匠の師匠であるU先生です。
 この点を詳しく説明しようかと思ったが断念。ここで書くことでもないしね。)
塩野さんのすごいところは、まずきちんと史料等を提示し、歴史学の手法の枠内で話を進めている点。
(個人的意見として、肩書きがなんであれ、きちんと歴史学の手法に則った著作物であれはそれは歴史書だし、
 歴史学者が書いた物でもその手続きに過誤があればそれは歴史書ではないと思っています。)
それだけなら別に普通ですが、塩野さんは個人を軸にして歴史を描写し、
かつそれを一般読者に面白く読ませてしまうところがすごい。
逆に言えば、同じことは歴史学者であっても出来るはず。
というわけで、いつか将来、「面白い!」と思われるような一般書を書くのが、私個人の野望です(笑)。
うん、でもこれって、すごい大それた目標ですよね。

というわけで、なんだかよくわからないオチになりましたが。
ローマ人の物語』は、「賢帝の世紀」までは文庫化されてるので、電車とかでも読めるし、
(わたしゃハードカバーでも持ち歩いて読んでますけどね…)
未読の方はぜひ一度いかがですか?おススメです。
あと、個人的には『海の都の物語』が一押し。
ローマ人の物語』は、個性的な人物が色々いるおかげで書きやすい部分もあると思うんですけど、
『海の都の物語』の方は、主人公というものが存在しないのに、
(あえて言うなら都市国家ヴェネツィアそのもの)読ませちゃいますからね。
つくづくすごいなと思います。
いつかヴェネツィアに行くのが夢なんだけどな~。