読書バトン(その2)。

前回に引き続き、「読書バトン」です。

5.大学生以上ではまった作家は?
 塩野七生村上春樹司馬遼太郎田中芳樹桑原水菜

 塩野七生村上春樹司馬遼太郎は、いずれも
 「高校時代から読んでいたけど、大学生になって本格的にはまった」作家。
 
 塩野七生については、以前にも何度か書きました。
今年の『ローマ人の物語』は「キリストの勝利」
塩野七生『ローマ世界の終焉―ローマ人の物語XV―』
 読み始めるきっかけになった作品は、実は『レパントの海戦』。
 高校の世界史で(もっとも、高校で世界史の授業を受けたことはないのですが)
「授業で名前は聞いたけど中身はよく知らない」事件とかってありません?
 レパントの海戦もそうした事件の一つだったんですが、
 たまたま図書館で見つけて手に取ったのがこれだった、というわけ。
 で、『コンスタンティノープルの陥落』・『ロードス島攻防記』と地中海三部作を読み、
 『ローマ人の物語』を読み、『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』を読み…で今に至る。
 小説は多分短編も含めて全部読んでるはずです。
 塩野作品の魅力はもうだいたい以前に書きつくしましたが、
「個人を軸にして歴史を描写し、それを面白く読ませてしまうところ」に尽きると思います。
 特に『ローマ人の物語』に関しては、それを「史料等を提示する」という歴史学の手法の枠内で話を進め、
 それを一般読者相手に成功させている、という点が素晴らしい。 
 歴史学を志す人間として、また、物を書くことを志す人間として、
 塩野さんはある意味で、私が一番影響を受けた人と言えるかもしれません。

 村上春樹は、高校生の時に『ノルウェイの森』だけ読んでました。
 やはりなんといっても、この作品が自分にとっての村上作品の
 読書体験の原点であり、全てと言えるような気がします。
 何度読んでも、その時々の自分のありようによって、
 ストーリーの見え方が全然違うんですよね。
 大学生になってから、人に勧められて、他の作品も読みました。
 以前にも書きましたけど、村上作品への入り方は、『ノルウェイの森
→四部作(『風の歌を聴け』・『1973年のピンボール』・『羊をめぐる冒険』+『ダンス・ダンス・ダンス』)
→『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
 というのが最適だと思います。どれも好きな作品です。
 個人的にランキングすると
 1『世界の終り~』 2『ノルウェイの森』 3『ダンス・ダンス・ダンス
 という感じ。
 『世界の終り~』については、以前感想も書いています。
 自分にとっての魅力は、「生と死のあいまいな関係」のあやういバランスの描き方、でしょうか。
 あと、特に四部作の主人公はおおむね自分と同年代(20代半ば~30代前半)なんですが、
 主人公の不完全燃焼感というか行き止まり感は、なんとなく共感できる気がします。

 司馬遼太郎は、「小説家としての」という注釈付きかなー。
 歴史思想っぽいことを書いてる時の司馬遼太郎は、いまいち受け付けない感じ。
 基本的に司馬作品の面白さは、「魅力的な個人」に負うている部分が大きいと思うんですよね。
 つまり、政治や社会はあまり書けなくて、でもむしろそれが面白い。
 その意味では、一番好きな作品は?と言われると、やっぱ『燃えよ剣』になります。
 あと、長編書いてても、「短編の集積」みたいな趣がありますよね。
 カットを多用した映画のように、場面ごとの転換がすごく印象的。
 短編集も好きなんですけど、そういう個々の場面の切り取り方がすごくうまいんですよね。

 で、大学に入ってから、人に勧められてはまったのが田中芳樹桑原水菜

 田中芳樹は、一時期「明けても暮れても『銀英伝』」状態でした(笑)。
 でもほんと、何度読んでも面白いもの。OVAも全部見たし。
 ちょうど10周年記念で徳間文庫版が刊行されていた時期で、
 次巻の出るのが待ち遠しかったことと言ったら…。
 そりゃあまあ、突っ込みどころだっていっぱいありますけど、
 でも、あれだけの壮大な道具立ての中で、個々のキャラクターの魅力を存分に引き出し、
 死ぬべき人間を「ちゃんと死なせて」破綻なくまとめ上げたと言う点で、
 やはり、日本における仮想歴史ものの金字塔でしょう。
 それからずっと追いかけ続け、一部短編・最近の翻訳作品・未文庫化作品
 (『ラインの虜囚』・『月蝕島の魔物』)以外は全部読んでるはず。
 最近の「ドラよけお涼」シリーズへの感想はまあアレですが(苦笑)、
 でもやっぱり大好きな作家です。

 桑原水菜は…いや、僕にとってはここに並んでても何の違和感もない作家ですが、何か?(笑)
 「桑原水菜にはまった」というよりは、「『炎の蜃気楼』にはまった」が正解かも、ですが。
 実は以前、「桑原水菜『炎の蜃気楼』を褒め称える。」なんて記事も書いてるくらいです。
炎の蜃気楼』は1990~2004年にかけて、コバルト文庫から出された(実に全40巻!)、
 サイキック現代歴史小説(笑)です。(ついでに言うと、当初は学園ものでもあった。)
主人公上杉景虎は、父謙信の命を受け、怨霊となった戦国武将たちを調伏するために、
現代まで換生(肉体が死んでも魂は死なず、他の肉体に乗り換えて生き続けること)を繰り返し、
最大の敵である第六天魔王織田信長と対決して…というお話。
 歴史を素材にした作品としての面白さは、以前この記事で書いたので今回は書きませんが、
 生と死の境界線というテーマ(これがあることで単なるオカルトものとは一線を画している)、
 熊野・伊勢などに話を帰結させていくプロットなど、小説としての面白さも一級だと思います。
 個人的には、高坂弾正をいつからああいう設定にしていたのか、作者にぜひ聞いてみたいです。

 余談ですが、この作品はおそらく私が読んだ2番目に長い小説ということになります。
 ちなみに、最長は多分山岡荘八徳川家康』。
 読んでませんけど、現在日本最長の小説は、やっぱり栗本薫グイン・サーガ』なんですよねえ?
 (正伝だけで119巻)


…てゆーか、「5000字以上です」って撥ねられたよ!!
仕方がないので3へ続きます。