『世界遺産で舞う マイヤ・プリセツカヤ with 梅若六郎 ~永遠に咲く花の如く~』。

世界遺産で舞う マイヤ・プリセツカヤ with 梅若六郎 ~永遠に咲く花の如く~』

<能>羽衣
 シテ(天人):梅若六郎 ワキ(漁夫白龍):廣谷和夫
 笛:竹市学 小鼓:吉阪一郎 大鼓:河村大 太鼓:前川光範
 後見:赤瀬雅則 地謡山崎正道・角当直隆・川口晃平・井上和幸
<バレエ>アヴェ・マイヤ(グノー作曲バッハ編曲「アヴェ・マリア」よりM.ベジャール振付)
 マイヤ・プリセツカヤ
 バイオリン:中島慎子 ピアノ:松本光史 リトルエンジェル:井阪友里愛・西尾萌
<ソロ演奏>?
<舞>「ボレロ・幻想桜」(ラヴェル作曲「ボレロ」より)
 マイヤ・プリセツカヤ梅若六郎藤間勘十郎
 パーカッション:仙波清彦 笛・尺八:竹井誠 大鼓:望月秀幸


えー、まずは客席で見ていたみなさま、ほんっと~うにお疲れさまでした(苦笑)。
いやー、ありとあらゆる不安要素が顕在化した公演だったなあ。
そのうちの4分の3くらいは(数値は適当)、天候によるものだと思いますが。
およそ公演可能な天候の中では最悪の状況だったのではなかろうかと。
とにかく寒いし濡れるし…。

ただねえ、「テントがない」だの「濡れたら帰りが困る」だの文句を言ってるマダームな方々を見ていると、
それは単にあなたたちの予測能力ないしは対処能力が欠けてるだけでしょう、という気がしましたが。
野外公演でこの天候なのに、濡れたら困る格好をしてくる方がどうかしていると思いますよ。
予測可能なリスクだったとはいえ、毛布と雨合羽を来客全員に配布した主催者側の対応は、
十分なものだったと思います(しかも、毛布まで「お持ち帰り」)。

まあそれでも、やっぱりしんどかったのはしんどかったです。野外公演は見てるほうも苦行だよ…。
せめて曇りだったら、もうちょっとなんとかなったんですけどねー。
晴れてたらきっと野外独特の良さが楽しめたと思うので、
ハイリスク・ハイリターンな企画なんですよね、やっぱり。

あと、いただけなかったのは、座席の配置。
全席パイプ椅子なのはまあ当然ですが、それを完全な平場に配置するんだから、
せめて前列と少しずつずらして後ろの列を配置するぐらいの工夫はしてほしかったです。
視野のほとんどは前の人の頭で隠れちゃうんだもんなー。


さて、そういった運営上のことはさておき、公演そのものの感想を。
…んー、正直、「最後の5分がすべて」の公演だったかな~。

『羽衣』は、前から一度見てみたかった演目。
「有名で筋も知ってるけど見たことがない」ものって、気になりません?
梅若さんの天人は、さすがの素晴らしさでした。
羽衣を着る以前と着た後で、当然雰囲気も変わるわけですが、
羽衣を着て舞っているところが、うまく言葉が見つかりませんが、
「つややか」というかなんというか、とにかく素敵でした。
羽衣も、もちろん物自体もすごくいいんだと思うんですけど、
「これは確かに、この世のものならぬ天人の羽衣なんだろう」と思わせる説得力があるんですよね。
これが最後に効くんです。

『アヴェ・マイヤ』は、プリセツカヤ70歳の記念にベジャールが贈った作品。
んん、いや、プリセツカヤの存在感はすごかったんですけど、
見ていて面白かったかと言われると、うーん、どうだろう。
実は、プリセツカヤが両手に紅白の扇を持って踊ったんですよね。
(これも今まで見たことないんですけど、これがオリジナルそのままなんでしょうか??)
そうすると、趣向としてはいいのかもしれませんけど、
指先まで含めての腕の動きが、あまり目立たなくなってしまって。
あと、舞台・客席の性質上、足元が全然見えなくて、足の運びとかが全然わかんないんですよね。
そんなわけで、個人的にはいささか不満が残りました。

次のソロ演奏は、当初の予定ではバイオリン独奏でバッハの「シャコンヌ」だったんですが、
なぜか笛(和笛)の独奏に変更になっていました。
結果的に、良い選択だったと思います。
神社の境内という舞台に、実によくマッチしていました。
時代劇ファンなら「白皙の美剣士といえば笛をたしなむと相場が決まっている」という意見に
賛成してくれると思うのですが、その取り合わせになる理由がわかった気が。
笛の音ってものすごく透明感があって、しーんとした静けさの中で聞くと、
音をほんとうに「美しい」と感じました。
あと、音楽だけですから、視覚的な状況の悪さの影響も受けないので、その点でも楽しめましたね。
ただ…こういうときに限って、上空を飛行機が通過したりするんだよな~(苦笑)。

※追記
バイオリン奏者の方のブログで読むと、演目の変更の理由は湿気によるコンディション不良だそうです。
そりゃあ確かに、あの天候はバイオリンには過酷ですよね~。
野外公演のリスクは、こういうところにもあるんだなあ。大変だ。


で、最後に『ボレロ・幻想桜』。
出だしは藤間さんが一人で踊り、すぐに梅若さんも加わり、しばらくは二人の踊りが続きます。
んー、面白かったには面白かったんですけど、「ボレロ日舞・能をやってみた」以上の感想ではないなあ。
多分そうなるんじゃないかな、とは思ってましたけど。コラボって、えてしてそうなりがちだし。

そして、「ボレロ」の音楽が盛り上がってまいりました~というところで、
いよいよプリセツカヤ登場。
…桜の枝を右手に、天人の衣を羽織って舞うプリセツカヤ
あー、なんかもうこれだけで十分満足です!本望です!!(笑)
いや、でもほんと、それまでの時間は、この最後5分(もあるかな?)のためにあったようなもんですよ。
これが見れて良かったなあ、と思います。

(まあ、「不満だった」という意見も結構多いんじゃないかな、という周囲の雰囲気でしたが
 個人的には満足だった、ということで。公演としての「評価」はまた別なんでしょうけど)


ちなみに、観に行く前に、「プリセツカヤは数年前に宝塚で『アイーダ』の振付をしているよ」
ということを教えてもらったんですが、
どうもパンフを見ていると、今回もそのつてでの企画だったようです。なるほど~。

あと、NHKの放送車が来てましたけど、『芸術劇場』の情報コーナーででもやってくれるのかな~?
ちょっと期待。

※追記
なお、昨日のプリセツカヤの写真は、読売新聞のサイトで見ることができます。
梅若六郎さん・プリセツカヤさん、夢のボレロの舞