二者択一の問題ではないけれど。

保護と開発とは二者択一的なものでないのは当然なのですが、
現実にこの場合どうするべきなのかというのは、難しい問題ですね…。

文化財は“邪魔者”? 保護か開発か、揺れる被災地(産経新聞)
 文化財の保護か、被災者の生活か。東日本大震災津波の被害を受けた岩手県沿岸部の高台にある遺跡をめぐって、議論が起きている。高台が少なく、移転候補地になり得るが、利用に厳しい規制があるためだ。「本来なら貴重な文化遺産なのに」「規制緩和してほしい」。地域の誇りとなるはずの遺跡に、人々の思いは揺れている。(渡辺陽子

「史跡ってのは、命より大切なのか」。9月中旬、岩手県大船渡市蛸ノ浦地区で開かれた復興住民会議で住民が声を上げた。
同地区は約50世帯が津波で被災。20世帯以上が、地区の高台にある国指定史跡「蛸(たこ)ノ浦貝塚」への集団移転を求めていた。史跡の地権者も15人中7人が家を失った。
蛸ノ浦貝塚は標高約35メートルの丘に広がる。約5万5千平方メートルが国の史跡に指定され、縄文時代の土器や人骨、住居跡などが大量に出土。貝層の厚さは最大2メートル以上あり、規模と保存状態の良さから日本屈指の大貝塚として知られる。
国指定史跡は文化財保護法で土地利用が厳しく制限され、開発には文化庁長官の許可が必要となる。そもそも長期間の保護が目的で、「住居の移転は原則として認められない」(文化庁)という。
大船渡市も復興住民会議で、「貴重な文化財を守るという国の見解を尊重する」との姿勢を崩さず、「史跡の一部だけでも規制緩和はできないか」と訴える住民との溝は埋まらなかった。

・価値があるなんて
住民が移転を求める背景には、史跡の価値への相違もある。
「そんなに価値のある史跡だなんて初めて知った」。蛸ノ浦地区の仮設住宅で暮らす主婦(66)は首をかしげる。蛸ノ浦貝塚には、史跡を説明する看板こそあれ、荒れ放題。訪れる人もまれで、普段は住民もほとんど意識していなかった。
6月には、規制緩和を求める要望書が地権者から大船渡市に提出された。地権者の一人、志田賢太郎さん(82)は「禍根を残せば、貝塚がいくら国の宝でも、“良い宝”にはなりにくい。早く具体的な移転候補地を示し、被災者を安心させることが大切だ」と複雑な胸中を吐露する。

・スピード調査
高台移転のために、遺跡の発掘調査に追われる自治体もある。
沿岸部の高台を中心に、縄文時代の住居跡など640カ所もの遺跡が確認されている岩手県宮古市。高台移転を希望する被災者から開発の届け出が相次ぐ。
文化財保護法では、遺跡を開発する場合、事前に調査員が発掘調査を行い、記録を残さなければならない。宮古市は調査員を増員し、9月からは岩手県から緊急派遣された調査班が発掘を手伝うなどして、届け出があったうち約半数の調査を終えた。
宮古市教育委員会の高橋憲太郎さん(52)は「遺跡が『復興の壁』とは思ってほしくない。今を生きる人の生活が何より大切だから、全力でスピードアップを図る」と話す。
文化庁は発掘調査を簡略化するよう指導したほか、調査費用の補助金の増額や適用範囲の拡大などの支援策を検討。今後見込まれる調査員の人手不足についても、「速やかに対応できるよう努力する」と話している。