二時間ドラマ的殺人事件。

講読の授業で、「人間関係がややこしかったです」と学生から泣きが入りました。

以下、出典は『百錬抄』です(※読み下し文は現代仮名遣いで書いております)。
面倒な方は下線部のみを拾い読みしていただけばよろしいかと。

安元元年閏九月廿九日条
前中務少輔為綱〈親隆卿の男なり〉、賊のため殺害せらる、風聞にいわく、密かに女の家に向かい、疑事あるにより帰宅す。敵人らすなわち襲い来たりこれを殺害す。
前中務少輔為綱〈親隆の息子〉が賊に殺害された。風聞によると、密かに女の家に向かったが、疑わしい事があったので帰宅した。敵人らがそこに襲って来て為綱を殺害したということだ。)

安元二年正月十三日条
雅宝僧都、使庁の使に付さる。後見する僧延済、為綱殺害の嫌機人たるの故なり。延済は為綱の愛妾の乳母夫なり。密通すと云々。
(雅宝僧都検非違使庁の使に拘引された。後見する延済が為綱殺害の容疑者だからである。延済は為綱の愛妾の乳母夫であり、密通していたということだ。

同年正月廿日条
為綱を殺害せし者僧宴済、使庁に召し出だし拷問す。承伏すでにおわんぬ。同類は上西門院前蔵人平盛方なり。(中略)おのおの承伏しおわんぬ。為綱は女房故顕能女に密通するなり。件の女は宴済の養君なり。しかるに密通す。盛方は件の女の弟夫なり。同じく密通す。同意し殺害す。盛方は下手なり。佐渡国に配流す。
(為綱を殺害した僧宴済を検非違使庁に召喚し拷問した。すでに罪を認めた。共犯者は上西門院前蔵人平盛方である。(中略)それぞれすでに罪を認めた。為綱は女房(故顕能の娘)と密通していた。この女は宴済の養君であったが、密通した。盛方はこの女の義弟であるが、同じく密通した。二人は共謀し為綱を殺害した。盛方は実行犯であり、佐渡国に配流された。)

要するに、とある女性(藤原顕能の娘)に、
藤原為綱・延済(=宴済、乳母夫)・平盛方(義弟)の三人が同時に密通していて、
後二者が共謀して為綱を殺害した、と。

実はこの事件、とっても狭い人間関係の中で発生しておりまして。
(関係系図
┌顕隆┬顕頼─雅宝
│   └顕能─娘
└親隆─為綱
というわけなので、為綱から見て相手の女性は従兄弟の娘になるわけですね。
で、早くに父の顕能を亡くした女性は、乳母夫である延済に養育されていて、
その延済を女性のいとこである雅宝が後見していた、と。
で、盛方は女性の義弟だというんですから、関係者はみんな親戚だってことです。

……安心しなさい学生さんたち、こんなややこしい事件にはめったに出くわさないから(苦笑)。