K-BALLET COMPANY『海賊』。

K-BALLET COMPANY『海賊』@フェスティバルホール 2007年6月2日

メドーラ:松岡梨絵
コンラッド:スチュアート・キャシディ
アリ:橋本直
ランケデム:宮尾俊太郎
グルナーラ:長田佳世
ビルバント:ビャンバ・バットボルト
イード・パシャ:イアン・ウェッブ

指揮:福田一
管弦楽:シアターオーケストラトーキョー
音楽:アドルフ・アダン他
原振付:マリウス・プティパ
演出・再振付・台本改訂:熊川哲也


というわけで、見てまいりました「熊川さん無きK-BALLET」。
心配してたんですが、パフォーマンスとしては宜しかったのではないかと思います。

全体の印象としては、コンラッドがとことん「ダメ海賊」だったなあという感じ(苦笑)。
念のために言っておくと、踊りや演技がだめだったとかそういうことじゃないですよ。
なんというかこう、およそ海賊の首領とは思えないような頼りなさ全開の役回りだったので。
遭難後の登場シーンではあまりに弱弱しく、
メドーラたちも「こんなの相手にしてもいいものかしら?」という風情(笑)。
あげく、ギリシャの娘たちを帰すようにメドーラに言われると、
「君の頼みならもちろんだとも」とばかりに二つ返事でOKし、嬉々として餞別まで出す。
そりゃー部下に反乱起こされますって(苦笑)。

で、女性陣は、「しっかり者」メドーラと「キュートでかわいい」グルナーラという取り合わせ。
メドーラの松岡さんは、登場シーンといい市場でのせりのシーンといい、
ちゃんとしっかり「真打ち登場」という感じで良かったです。
こういう取り合わせだと、「ダメ海賊コンラッドがしっかり者の姉さん女房メドーラと出会って変身」
というという筋に見えてしまいました(笑)。

脇のキャラでは、ランケデムの宮尾さんが、奴隷商人としての胡散臭さを醸し出しつつ、
決める振りはきっちり決めていい味出してました。

さて、ある意味一番肝心な役であるアリですが、
熊川さんの代役である橋本さんはしっかり頑張ってました!敢闘賞もの。
やっぱ見せ場は洞窟でのパドトロワなんでしょうけど、良かったです。
これを見ながら、これのジャンプの形とかって、
なんかバヤデールのブロンズアイドルに似てるなーと思いながら見てたんですが、
(なんちゅうか、足を胡坐みたいにして、手を上で光背のようにして、くるくる回るあれです)
それだけに、熊哲ファンは楽しみにしていたのであろう、と。
で、本人さぞかしプレッシャーだっただろうなと思うんですが、見事な出来栄えでした。

気になったのはコールドの弱さですかねー。
揃い方とか迫力とか、訴えかけてくるものがやっぱりちょっと物足りない。
ソロはある意味トップの力量で何とかなるんでしょうけど、
こういう積み上げ・積み重ねの部分は、若いバレエ団だとやっぱり難しいんだね、と思いました。

それでですね。
今回一番気になったのは、演技ではなくて演出だったのです。
とはいえ、私としても比較対象は去年見たマリインスキー・バレエのものしかないので、
それが今回独自の演出なのかどうかが良くわからないんですが。
とりあえず、あらすじをざっと書くと、
 海賊コンラッドが難破→浜に打ち上げられたところをギリシャ人の娘メドーラが助ける
→そこにトルコ兵を手引きした奴隷商人ランケデム登場、コンラッドは逃れるがメドーラ達が捕まる
→ランケデムがメドーラ達を総督セイード・パシャに売りつけようとするところにコンラッドが登場し救出
コンラッド・メドーラ一行は本拠地に帰るが、メドーラ以外の娘達は故郷に返してくれるよう懇願
→娘達を返したコンラッドに不満を持つ手下のビルバントたちをランケデムがそそのかし、メドーラを連れ去る
→ランケデムはセイード・パシャにメドーラを引き渡すが、そこに再びコンラッドが登場しメドーラを取り返す
→めでたしめでたし

で、前回見たのとの違いを順を追って書いていきます。
まず違うなあと思ったのが、ビルバントとランケデムの関係。
去年見た版ではランケデムがビルバントをそそのかすんですが、
今回はビルバントが反逆を決意したのち、ランケデムをつれてきて共謀します。
で、どう事態が推移するかというと、
 ビルバントとつるむ手下二人が、寝室にいるコンラッドにいきなり睡眠薬をかがせる
→覆面をつけたビルバントがコンラッドを刺そうとするが、メドーラに阻止され、逆に傷を負う
→ランケデムはここでビルバントを裏切り、ビルバントを置いてメドーラをつれ立ち去る
→メドーラ奪回を誓うコンラッド、ビルバントはぬけぬけとコンラッドに従う
という展開。
ね、コンラッドは情けないでしょう。「だまされて睡眠薬入りの酒を飲む」のですらないし(苦笑)。
どうもこの版での海賊たち、頭を使うのは面倒なのか、
市場の場面でも金銭交渉せずいきなり暴力沙汰に及ぶし、
パシャの宮殿に乗り込むときも巡礼者の振りなんかせずにいきなり正面攻撃です。
なんだかな…。

で、ビルバントの行動の伏線はどう利いてくるのかな、と思っていたら、
最後の最後で、(ある意味)衝撃の展開が…。
メドーラ奪回に成功し、挙句パシャから金までふんだくったコンラッドたち、
めでたしめでたしかと思いきや、メドーラがビルバントの腕のケガを見て、
「こいつがランケデムと一緒に裏切ったのよ!」と告発。
ぶちきれるコンラッドはビルバントを殺そうとするが、ビルバントに懇願され、置き去りにして立ち去ろうとする。
ところが、背を向けて立ち去ろうとするコンラッドを銃で撃とうとするビルバント――

パーン!

コンラッドをかばい撃たれるアリ!(ええ~~)
ビルバントに止めを刺すコンラッド、アリにすがりつき悲嘆にくれるグルナーラを残し舞台は暗転。
ふたたび照明がつくと、船で航海するコンラッドとメドーラの二人の姿が…。
END
…あのー、グルナーラはどこへやったんですか、お二人さん?(苦笑)
てゆーか、なんでそこでアリが死ぬわけ?犬死ですよ、犬死。
いや、ラストでコンラッドとメドーラの二人だけに話を収束させたかった意図はわかるけど、
そんなことをする必要性はどこにもなかったように思われます。
アリが撃たれた瞬間の、客席の呆気に取られた雰囲気は凄かったです。
コンラッドの「ダメ海賊」ぶりを見るだにつけ、
こいつは絶対アリがいたおかげで首領としてやって来れたに違いあるまいと思うので、
今後のコンラッドの未来は非常に暗いものと思われました、はい。
これは熊哲さん独自の演出なのであろうか。ふむう。

あと、カーテンコールでは、ほんと最後の最後で熊川さんもご登場。
それを見て、けっこうな数の人が立ち上がって拍手を送っていたのですが…
気持ちはわかるんだけど、そこで立って拍手するんだったら、
代役の橋本くんに対してやってあげないとかわいそうなんじゃない?と私には思われました。
それか、最初から立って拍手をして、芸術監督もステージに呼び出すという順序だろう、と。

と、そんな感想です。
いろいろ書きましたけど満足できる舞台だったので、また機会があれば見てみたいです。