かわぐちかいじ『イーグル』。

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長い長いアメリカ大統領選挙も、いよいよ本格化してまいりました。
興味としてはやはり、アメリカ初の「女性大統領」なり「アフリカ系出身大統領」なりが
生まれるのかどうかが気になります。

で、アメリカ大統領選挙を題材とした日本の作品というのは多分あまりないと思うのですが、
かわぐちかいじ『イーグル』はその一つ。
日系三世であるケネス・ヤマオカと、その息子(戸籍上は私生児)である新聞記者城鷹志を主人公に、
ヤマオカがアメリカ初の日系大統領となるまでを描いた作品です。
連載期間は1998年~2001年で、登場人物も、
ビル&ヒラリー・クリントンアルバート・ゴア、ジョン・グレン、ウォルター・クロンカイト…
がモデルだなーと明らかにわかるキャラが多いです。

銃規制・ベトナム戦争の否定・本土防衛目的以外の戦争禁止・海外駐留軍の撤退など、
ヤマオカの掲げる思いっきりリベラルに振れた政策もなかなか面白いですが(現実性はさておいて)、
メインストーリーで一番面白いのは、選挙終盤、立ちはだかる人種差別の壁と、
ヤマオカの乗り越え方でしょう。
最終的にヤマオカは、有権者対立候補の中に潜在的に眠っている人種差別意識を引きずりだし、
それを明示して見せることで、選挙に勝利します。
それはある意味で、「建前」でしかない理想をあらためて高く掲げる行為、といえるでしょう。
また、人間の理性に訴えることで理想を実現できる、と考える点で、
非常に人間の美点にスポットを当てた描き方だといえるかもしれません。
それがリアルかどうかはともかくとして、読んでいてとても前向きな気持ちにはなります。
(もちろん、政治のダーティーな面だって描かれているのですが)

沈黙の艦隊』でも『太陽の黙示録』でもそうですが、かわぐちかいじの作品の魅力は、
「理想を高く掲げ、行動力でそれを実現していくリーダー」の描き方にあるのではないかと思います。
また実にカッコイイのですよ、それが。
(この点、『ジパング』は個人的にどうもピンと来ない)
こういうキャラクターを中心に据えると、必然的にテーマは政治的・社会的なものになりますが、
魅力的な人物造型という点で言うと、マンガならかわぐちかいじ、小説なら小松左京が一押しです。

さて、現在のアメリカ大統領選挙の状況を見る限り、
『イーグル』はある部分で現実を先取りした作品であったと評価できます。
女性やアフリカ系出身の大統領候補が現実のものとなったとき、
差別という名の壁が立ち現れるのか、その場合、それを候補者は乗り越えられるのか。
今から注目しています。