関西二期会『ドン・カルロ』。

関西二期会第81回オペラ公演
創立50周年記念 ヴェルディ 歌劇『ドン・カルロ

フィリッポ2世 片桐直樹
ドン・カルロ 小餅谷哲男
ロドリーゴ 大谷圭介.
宗教裁判長 フルヴィオ・ヴァレンティ
エリザベッタ 泉貴子
エーボリ公女 福原寿美枝
テバルド 西田真由子
修道僧 西田昭広
天よりの声 日紫喜惠美
レルマ伯爵 角地正直
合唱 関西二期会合唱団
管弦楽 関西フィルハーモニー管弦楽団

作曲 ジュゼッペ・ヴェルディ
台本 フランソワ・ジョセフ・メリ
カミーユ・デュ・ロクル
原作 フリードリッヒ・フォン・シラー
指揮 ダニエーレ・アジマン
演出・装置・衣裳 カルロ・アントニオ・デ・ルチア

今日は、合唱団でお世話になっている先生が出演される、オペラを見てきました。
ヴェルディ作の壮大な史劇で、上演時間3時間超の、聴きごたえのある作品です。
なんせ、全四幕あるうちの、第一幕だけで、上演時間65分ですからね!

舞台は、フェリペ2世(劇中ではフィリッポ2世)治世下のスペイン。
純化すると、「息子の婚約者を横取りした国王フィリッポ2世」
「かつての婚約者が忘れられない王子ドン・カルロ
「かつての婚約者の様子を見て胸を痛める王妃エリザベッタ」
という三角関係なのですが、
「王子の無二の親友にして、国王の忠実な臣下ロドリーゴ
「絶世の美貌を持つ王妃の女官エーボリ公女」
という二人の存在によって、事態は泥沼化複雑化します。

というか、事態の悪化のかなりの部分の責任を、エボリ公女が占めているのですが……
「王子は私に恋しているのではないかしら」と思い込み、
王子が愛しているのは、自分ではなく王妃だとわかり逆上し、
王子と王妃の関係を王に暴露するというのは、どうかとは思いますが、まあまだわかります。
問題は、暴露ついでに王と関係を持ってしまうというところ。
しかも、嫉妬に駆られた自分の行いを反省し、王妃に懺悔する段になって、
王との関係のことまで正直に言ってしまうのが何とも。
いや、もうそこは口を拭って黙っときましょうよ今さら。
ここで改心するところが、今回の版では、ラストで重要な役割を果たすんですけどね。

王子もいろいろと困った人だし、王も最初に息子の婚約者を横取りした弱みがあるのですが、
王妃は最初は冷静に王子をなだめるので、理性の人なのかしらと思っていたら、
突如「そんなことを言うなら父親を刺してみろ!」とか王子に言い出すのでビックリです。
そんな根性もあるまいと思っていたのかもしれませんが、結果的に謀叛の扇動に一役買うことに。
ロドリーゴもそうですが(「フランドルの救世主になるのはあなただ!」と最期まで煽っております)、
基本、この作品では、良かれと思ってやることも、みんな裏目に出てしまうんですよね。
まあ、世の中そんなものなのかもしれません。

というか、しばしば、人間は、強さよりも弱さに魅力や共感を感じるものですが、
今回のオペラの中でも、一番の圧巻は、罪を告白した後の、エボリ公女のアリアでした。
福原さんの歌が、もう本当に素晴らしかったです!
合唱団の公演で、ソリストとして何度も出演していただいていて、
素晴らしい歌声をお持ちだというのはよくよく承知していましたが、それでも改めて驚き、感動しました。
「私のこの罪深い美貌がいけないのよ、そのせいで、王子が私を愛しているなんて誤解しちゃったんだから」
という、反省してるんだかどうなんだか……な内容のアリアではあるんですが。

あと、公女は、王妃から「国外退去か修道院に入るか、どちらかを選べ」と言われるんですが、
修道院に入ったからといって、苦しみが終るわけではない」とアリアで繰り返し歌います。
で、アリアの最後に「私にはまだ最後にできることがある、王子をお救いすることができる」と歌うので、
これって何のことかなーと思って聴いていたのですが、これと同じ歌詞・メロディが、全体の最後の場面で、
カルロ5世(に扮した修道僧)が歌うのを聴いて、なるほど、と。
これって、公女が手をまわして、修道僧にカルロ5世の真似をさせ、ドン・カルロを助けさせたってことですよね。
あらすじに「先王カルロ5世の亡霊が出現し、不思議な力でカルロをいずこへと連れ去っていく」
みたいなことが書かれていて、これってどうするのかなーと思っていたのですが、なかなか面白い演出でした。
これは原典の段階でこういう設定なんですかね~。他の版を見てみないとわかりませんが。

ロドリーゴは、何というか、とっても清々しいロドリーゴでした。
演出や解釈によっては、すごく生々しい情念系(ボーイズラブ)なロドリーゴになるんだと思うんですが。
死にゆく場面で「私の手を取って」「私のことを忘れないで」って、むっちゃそれっぽいですよね。
実際、ネットで見てみると、そういう解釈の公演もたくさんあるようで。
歌声は本当に素晴らしかったです!
ロドリーゴとエーボリ公女が特に印象に残ったのは、多分、会場の他の多くの方もそうだったようで、
カーテンコールでのお客さんの反応に、如実に表れてましたね。

個人的に、他に得に素晴らしいと思ったのは、国王・宗教裁判長・天よりの声でした。
宗教裁判長はイタリアの方で、、唯一のシングルキャストでしたが、それもむべなるかなと思います。
あの地の底から響くような超低音は、日本人ではなかなか難しいですよね。
国王の片桐さんは、すごいいい感じで貫録が着かれましたね。
天よりの声は、出番は一度だけなんですけど、それですべてを持って行ってしまう美味しい役どころでした(笑)。
そういう意味で、位置付け的には、『魔笛』の夜の女王のアリアに似てるんですかね~。

というわけで、とても素晴らしい公演で、大満足でした。